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『国富論』でスミスが主に主張していたのは「富の増産」について、です。
そこで目指した経済発展とは、重商主義的な貴金属集めではなく、国民の生活に必要な「必需品・便益品」を増産することです。なぜなら、当時のイギリスは圧倒的な「モノ不足」だったからです。その状況を打開するために、経済発展(富の増産)が必要だったのです。
まさにこれが「幸福の条件」を整えるわけです。
また、経済が発展すれば、それだけ仕事が増え、失業者が減ります。人は、失業すると経済的に苦しくなると同時に、精神的苦痛も味わいます。たとえ失業者本人にはどうしようもなかったとしても、世間は失業者を軽蔑し、否認します。
世間から軽蔑の眼で見られている人が幸福を手に入れることは困難です。だから国民の幸福を考えれば、失業をなくさなければなりません。そしてそのためには、仕事を増やすこと、つまり経済発展が必要なのです。
経済が発展すれば、格差が拡がり、不公平な社会になるという指摘があります。現代でも「格差の拡大」は政策の失敗として批判されることがありますが、スミスの時代にもそういう声があったようです。
しかし、スミスは格差を必要悪として認めていました。経済の原動力となる一部の人間が、一生懸命、富を追求します。そして、その人が富を使うことで、国中に富が行き渡り、貧しい人々も富を手にすることができるのです。
『国富論』は、当時主流だった「重商主義」への批判や、経済の自立メカニズムを解明した点が主に注目されます。しかし、『国富論』の根底にある目的は、「国の富を増やすこと」です。そしてそれは「国民の幸せのために」だったのです。