裁判員制度で激変した司法の現場

『死刑と正義』著者・森炎インタビュー
森 炎

――その人命以外の価値が何であるか、それが市民に問われるという構図になるのでしょうか。それが明かされるとき、正義があるということになるのでしょうか。

 そのとおりです。ですから、人命の価値以外の、死刑を決める価値とはいったい何なのか。そのような価値がわれわれの社会に本当にあるのか、それが明かされずに死刑宣告している今の状況は何なのか……と問題は先鋭化していきます。

秋葉原通り魔事件、光市母子殺害事件で問われたこと

――今年で裁判員制度が始まって3年になります。その間には、死刑判決も十数件出ています。それらの死刑判決は、森さんの目から見るとどうなるのでしょうか。

 残念ながら、死刑の根拠となる価値を示せていません。まったく示せていない。だから、それらは正義を示した死刑とは言えません。今言ったように、死刑を決める社会の価値が明かされずに死刑宣告だけがおこなわれている状態です。

――死刑を決める価値が是非とも示されなければならないというのは、そうとして、では、どのような社会の価値が考えられるのでしょうか。人命以外の価値が問われるとすれば、たとえば、秋葉原の通り魔事件、あるいは光市の母子殺害事件では、どうなるのでしょうか。

 それを考えていくのが、今回の『死刑と正義』ですが、たとえば、秋葉原の通り魔事件であれば、「安全な社会」の価値理念がそれです。治安社会という意味ではなくて、フーコーが言うような意味での現代的な「安全の理念」ですね。光市の母子殺害事件では、ヘーゲルが人倫という言葉で表した「家族の情愛や結びつき」になるでしょう。そこでは社会全体のなかではもっともつつましい、しかし市民にとってもっとも大切な「家族」という価値が極限的に犠牲にされています。

 本書では、それらの著名事件によって象徴されるシーンを死刑空間と名づけ、それぞれの死刑空間を巡り、死刑を決める価値の所在を探っていきます。そこには、これまでの無色透明な「基準」とは違って、価値判断という色彩があります。その彩られた価値こそが、本書の考える死刑の正義です。

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