金本知憲、小久保裕紀、石井琢朗ら一流選手が自らユニフォームを脱ぐことを決意した今シーズン。その陰で、チームから戦力の外に追いやられた男たちがいる。今年もまた、この季節がやってきた―。
チームがCS第1戦、ナゴヤドームで雌雄を決している最中、男は埼玉・戸田のヤクルト二軍グラウンドにいた。
一場靖弘。一流の才能を引っ提げ、プロの世界に飛び込んできた男は、結局それを花開かせることのないまま、今年30歳を迎えた。
「戦力外通告は急な話ではなかったです。チームの方針で若手の起用が多くなり、チャンスが回ってこなかった。でもそれは自分の責任。たぶんこうなるだろうな、というふうには考えていました」
一場といえば、やはり思い出されるのはあの事件だ。本人もその影響をいまだ拭い切れないでいる。
「やはり入る時に躓いてしまったことを引きずっている部分はあります。自分のせいで多くの人に迷惑をかけてしまったわけですから」
明治大で〝六大学最速の男〟と呼ばれ、戦後最多となる107奪三振の記録を打ち立てた一場は、'04年のドラフトの目玉だった。巨人への入団が内定していたこの年の8月、裏金問題が発覚する。さらに、横浜、阪神からの金銭授受も明らかとなり、この問題は連日、テレビやスポーツ紙で大きく報じられた。巨人入りが白紙となった一場は、明大野球部を退部。渡邉恒雄氏がオーナー職を辞するなど、球史に残る大騒動に発展した。
結局、自由獲得枠で楽天に入団するも、満足のいく成績は残せなかった。そして'09年、転機が訪れる。ヤクルトへ移籍し、すぐに勝利を挙げたのだ。心機一転、ここが一流の証明のスタートにはもってこいのタイミングだった。しかし---。これ以降、一場がメディアに取り上げられることはほとんどなかった。