ギリシャの金融危機というと、昨今は聞いただけでウンザリ感が募るが、先週ようやく、ちょっと気分転換になるニュースが出た。
その事件は、10月27日、ギリシャのHot Docという名の大衆雑誌が、スイスに銀行口座を持っているギリシャ人の金持ち2059人の名前を公表したことで始まった。リストには、著名な政治家、ジャーナリストの名前が含まれていた。
ギリシャが、裕福な脱税者を抱える貧しい国であることは周知の事実だ。それでも、このニュースを聞いたギリシャ国民の頭にはカッと血が上った。
究極の緊縮財政で、彼らの生活はいよいよ苦しい。給料も年金もカット、学校では教科書も配布されない、医療保険がマヒしているので、医者は治療費全額現金払いでないと見てくれない。おまけに増え続ける失業・・・。もともとたいした産業のない国なのだから、国民はこの2年間、地獄のような状況でどうにか暮らしている。
それなのに、このリストに載っている2059人は、潤沢な財産をスイスに隠して知らんふり。税金も払っていないに違いない! なぜ、奴らの脱税に目をつぶり、貧しい者からばかり毟り取るのだ! 怒りは頂点に達した。
ところが翌日、民衆の怒りを無視するかのように、Hot Docの編集長が捕まった。編集長の名はコスタス・ヴァクセヴァニス(Kostas Vaxevanis)、砲丸投げでもやれば上手そうな、むくつけき大男である。検察の挙げた拘束理由は、①名前を挙げられた人たちが脱税をしているとは限らない、②個人名の公表は人格を傷つける行為である、の2点。ヴァクセヴァニスは、個人情報流出の罪に問われ、3年の懲役と罰金を科される危機に晒された。
拘束されたヴァクセヴァニスは、すぐさまツイッターを発信した。
「今、捕まった。この情報を広めてほしい。彼らは盗人や不法行為を働く閣僚の代わりに、真実を逮捕した」
ところが、超特急の裁判が行われた結果、4日後の11月1日、理由は明らかにされないまま、"真実"は無罪放免。そんなわけで、むくつけき大男が、裁判所の前に集まった人々に熱狂的に迎えられている様子が報道されたのだが、用心しないと消されてしまうのではないかと、ちょっと心配だ。
おかしいのは、他のメディア。何を恐れているのか、彼らはヴァクセヴァニスを非難し、あるいは、この事件を"まったくの茶番"にしようと試みている。