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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第2回】フォトグラフィックメモリーの持ち主

奥村 隆 プロフィール

 その瞬間だった。胸の奥で何かが弾けた。僕の表情はひどく歪んだのではないかと思う。

 「凄い記憶力」という言葉に、僕は心底、むっとしたのである。実は、僕は記録力に関してだけは、子供の頃から誰にも負けたことがない。もちろん、息子にだって絶対に負けない。

 そして僕は、この記憶力の話題になると、なぜか感情が激しく波立ち、どんな場所でも、誰が相手でも、自分のことを話さずにはいられなくなるのだ。心の中で、「俺の記憶力がどれだけ凄いか知ってるのか!」と叫びながら・・・。このときも同じだった。

 「先生、息子より、僕の子供の頃の方が記憶力は良かったんですよ。僕はフォトグラフィックメモリーの持ち主だったんです」

 「フォトグラフィックメモリー?」

 単語の意味がわからなかったのか、医師は怪訝そうな表情をした。しかし、それに構わず、僕は喋り続けた。こうなると止まらない。口が勝手に動いてしまうのである。

 

 「フォトフラフィックメモリーとは、視覚でとらえたものを画像として脳に刷り込んでいく記憶法です。脳に画像を一枚一枚プリントしていく感覚です。僕はこの方法で、ちょっと時間をかければ、文字でも映像でも、見た通り丸暗記できるんです。

 子供の頃は、スポーツの記録集の内容を一冊丸ごと記憶していました。何の役にも立ちませんでしたが。歌謡曲番組の人気ランキングを毎週分、下位の方まで全部覚えておくなんて簡単でした。それから・・・」

 医師に何と思われようがどうでもよくなって、僕は自分のことを語り続けた。時間にして数分間だろうか、医師は「ふむふむ」とか「へぇ」などと相槌を打ちながら聞いていたが、やがて、こう切り出した。

 「お父さん、息子さんの話に戻りましょう。息子さんの絵で、私が気になった点を申し上げます」

 そうだ。本題は息子が描いた絵の話だった。それをすっかり忘れて、"自分語り"に夢中になっていたのだ。僕は姿勢を正し、「お願いします」と応じて、医師の言葉を待った。

〈→第3回〉