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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第2回】フォトグラフィックメモリーの持ち主

奥村 隆 プロフィール

息子が描いた絵の謎

 診察室のドアが開いて、息子が外に飛び出してきたのは、実に2時間後のことだった。しかし、不安そうな表情はまったく見られない。それどころか、笑顔で「楽しかったよ」と言うではないか。僕は「さすが名医は違うなぁ」と感心して、診断の結果を聞くため、診察室に入った。

 医師のデスクの上には、何かの絵が描かれた三枚の画用紙が並んでいた。見せてもらうと、一枚目の絵に描かれていたのは、小学生くらいの男の子が立っている姿。二枚目には、家の絵が描かれている。普通の一軒家だ。三枚目の画用紙には、枝葉を広げた木の絵が描かれていた。

 医師は「この『子供』と『家』と『木』の絵は、診察のため、息子さんに描いてもらったものです」と説明した上で、僕に質問を投げかけてきた。

 

 「この絵の中で、私が気になったところがあるんですが、わかりますか?」

 何だろう? 三枚の絵を見ながらあれこれ考えたが、わからなかった。たとえば、「子供」を描いた一枚目の絵は、頭から足の先までの全身像である。上手に描けていると思ったし、気になるところは一つもなかった。

 そう正直な感想を伝えてから、僕は、

 「別に変わったところがある絵とは思えませんけど・・・。ほら、僕だって子供の姿は同じようにこう描きますよ」

 と言って、画用紙の端のスペースに、男の子の絵を小さく描いてみせた。医師は、突然の僕の行動に意表を衝かれたのか、それとも僕の絵があまりにも下手で驚いたのか、しばらくそれをじっと見つめていた。

医師が凝視していたもの

 二枚目に描かれていた「家」には、母屋と物置らしき二棟の建物があった。屋根の瓦が一枚一枚、丁寧に描き込まれているので、とてもリアルだ。

 ただ、影が描かれていないため、家は宙に浮いているように見える。その点が問題だというのだろうか? でも、小学生であれば仕方がないと思うが・・・。