『証言 民主党政権』 著:薬師寺克行
「世論調査政治」の落とし穴

 二〇〇九年に政権を取ると、この傾向に拍車がかかったようだ。閣僚たちは国民の喝采を浴びようと実現の道筋がはっきりしない新政策を打ち出すなど、派手な言動が目立ってきた。鳩山首相が打ち出した米軍普天間飛行場の移転先の見直しも同じ発想からだろう。
インタビューに応じて下さった多くの方が、「民主党政権の失敗」の原因として、国を統治することの重要性に対する認識不足や責任感の欠如などをあげた。腰を据えてじっくりと重要政策に取り組むことをせず、目先の評価、評判を気にし、やがてそれが自縄自縛になっていったのだ。

 もちろん、民主党政権がうまくいかなかった理由は他にもある。間違った政治主導が「政官関係」を壊してしまい、組織的な対応ができなくなってしまったことも大きい。内閣に入っていないため政策決定過程に参画できない多くの民主党所属国会議員が不満を溜めていき、やがて党分裂につながった制度設計の失敗もあったろう。

 世論調査を気にしすぎる政治が民主党を徐々に浸食し、変質させ、政権運営の失敗につながったのだ。日々移ろいゆく数字に右顧左眄し、目先の評判を得るため短期間に成果を上げようとする政治に安定感はない。そればかりか、そんな姿勢は政治家たちの自信のなさをさらけ出しているようなものであり、結局は政権の足元を崩してしまったことは残念なことだ。

「世論調査政治」は今、民主党だけでなく政界全体に蔓延している。自民党が政権を失っていったプロセスも、国民に人気のある政治家をとっかえひっかえ首相に使ってきた「世論調査政治」の果てだった。そして今、国民の耳目を集めている「維新の会」の動きもしかりである。

 政党が抱える人材には限りがある。世論の人気に合わせて政治家を次々と消費すれば政党はたちまち行き詰まってしまう。また、財政状況が厳しい中、政府が選択できる政策にも限度がある。国民の支持を得るため受けのいい政策を打ち出し際限なく歳出を増やせば、国の財布があっという間に破綻する。

 八人の証言は、堂々と世論に向き合い、時には世論に抵抗する「脱世論調査政治」が必要であることを示している。

http://www.realpolitics.jp/kaisetsu/?cat=4(二〇一二年九月二三日閲覧)
(やくしじ・かつゆき 東洋大学教授)



◆ 内容紹介
――政権交代を導き、政権中枢にいた「民主党政権」の当事者に、統治機構の内実を問う。政権交代時の「朝日新聞」政治部長が後世に問う、渾身のオーラル・ヒストリー!――
 
薬師寺克行(やくしじ・かつゆき)
1955年岡山県生まれ。東洋大学社会学部教授。東京大学文学部を卒業し、朝日新聞社に入社。主に政治部で国内政治や日本外交を担当。論説委員、月刊誌「論座」編集長、政治部長、編集委員などを経て、2011年に退社し現職に。この間、京都大学客員教授、学習院大学特別客員教授などを務める。専門は現代政治論、政治過程論。著書『外務省』(岩波新書)、編著『菅直人 市民運動から政治闘争へ 90年代の証言』(朝日新聞出版)、『村山富市回顧録』(岩波書店)ほか。

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