『アメリカを動かす思想』 著者:小川仁志
閉塞感を打ち砕く
「プラグマティズム」という道具

 ここで提案したいのが、マルクスの上部下部構造を用いたアナロジーだ。マルクスは、経済を下部構造として、社会制度や思想はそれに規定される上部構造であると唱えた。これを応用して、プラグマティズムを他のあらゆる社会制度や思想を規定する下部構造ととらえるのである。そうすると、リベラリズムや保守主義はプラグマティズムに左右される上部構造に過ぎないことになる。

 そのように見ると、アメリカが時にリベラルの民主党を選び、時に保守の共和党を選ぶ理由がよく分かる。つまりアメリカは、富の再分配がより必要な時はリベラルを選び、そちらに傾き過ぎた時には保守を選ぶことで、その都度世の中が「うまくいく選択」をしているだけなのだ。

 今回の大統領選挙のように、一見分裂に見えるのは、単なる選択肢変更に伴う移行のプロセスに過ぎない。そうしていつも最後は一つの強い国として落ちつくのだ。もちろん大統領選挙の日を境に、次なる、より「うまくいく選択」への移行が始まるわけだが。

 このように、アメリカの政治はプラグマティズムによって規定されているということができる。これは政治だけではない。経済も同じである。アメリカはイノベーションの国だといわれる。アップルの創業者スティーブ・ジョブズを生み出したのも、結果がうまくいけばそれでいいとする風潮の賜物だ。

 残念ながら日本にはそのような風潮はない。逆に、悪名高き前例主義や、行動に移す前の過度に慎重な検討プロセスが、イノベーションを阻んでいる。日本の経済が行き詰まっているのは、プラグマティズム的発想が欠けているからではないだろうか?

 そこで私は、日本にプラグマティズムをもたらしたいと考えている。『アメリカを動かす思想』という本のサブタイトルにあえて「プラグマティズム入門」と付け加えたのには、そうした意図がある。単にアメリカ社会を思想の面から読み解くというだけでなく、そのアメリカを動かす思想としてのプラグマティズムを学び、日本社会を変える。それが真の目的である。

 プラグマティズムというのは、政治思想でも経済思想でもない。もっと幅広く一般的な思考法としてとらえることができる。その意味で、あらゆる事象に適用することができるのである。