シャープは断腸の思いで5000人のリストラを決定したが、目まぐるしく変化する電機産業界では判断が遅すぎる。サムスンと鴻海、世界的企業となった両社では、常に即断即決が求められている。
大槻 世界の電機産業は、デジタル化によって様相が一変しました。新興国メーカーが最新技術に追いつくのが容易になり、競争はますます激化しています。アップル、サムスン、鴻海精密工業など世界の巨大企業に共通するのは、「3年先に同じ仕事はない」という危機意識だと思います。それに比べ、どうしても日本のメーカーはいまだに旧態依然とした経営に甘んじているように見えてしまいます。
吉川 日本メーカーの退潮は明らかですが、現在のシャープの窮状は、その代表例です。
象徴的な話があります。
'03年頃、当時の町田勝彦・シャープ社長は、液晶事業の好調に気を良くして、4000億円を超える莫大な額の投資をして三重県・亀山工場での液晶テレビ一貫生産に踏み切った。
同時に、「テレビ事業は、高付加価値のオンリーワンでいく」と宣言したのです。これを聞いたサムスンのテレビ事業担当者が、
「これで勝った」
と言ったことをいまでもよく覚えています。
大槻 サムスンはシャープの巨額投資が失敗に終わることを見通していたんですね。
吉川 あのころ、日本のメディアはシャープを持ち上げる提灯記事ばかり書いていましたが、すでに予兆は見えていました。
まず、オンリーワンという発想そのものが間違っている。
オンリーワンを標榜するということは、シェアを目指さないということです。亀山工場でしか作ることができない特殊な製品では、世界の市場で圧倒的なシェアを握ることができない。量産できなければ、価格が下がらない。
世界の消費者は、パッと見ただけでは分からないくらいの画質の差など、求めていません。「テレビは映ればいい」という人が、いっぱいいる。そういう人たちは、1ドルでも安い製品を買うんです。
大槻「いいものを作っているんだから、売れるはずだ」というシャープの戦略は、自分本位の発想だったということでしょうね。
吉川 テレビCMで、「亀山モデル」だとか、「プラズマクラスター」などの工場や、技術の名前を売り物にするのは悪い傾向です。
消費者にとっては、どこで作った製品だろうが関係ない。実際に使ってわくわくする製品であれば、それでいいんです。
シャープの経営陣は、亀山工場に投資した約5000億円を回収するには50年かかると計算していたそうです。つまり、彼らは液晶テレビ事業がこの先50年間続くと考えていたわけです。
大槻 実際には、テレビの形態そのものがどんどん変化しています。アップルのiTVという製品は、TVと銘打ってはいますが、地上波の電波を受信し、それを画面に映して楽しむという従来型のテレビではありません。
クラウド・コンピュータのサーバーのなかに保存されている映像データを、無線LAN経由で楽しむというコンセプトです。