第7回 ヘンリー・フォード(その一)
自動車の発明---
アメリカ国民に「移動の自由」を普及させた

福田 和也

 日米貿易摩擦たけなわの一九八〇年、トヨタ自動車のジャスト・イン・タイム方式(JIT)と、そのシステム運用についての考え方について調査に訪れた、コンサルティングプロダクティヴィティ社のノーマン・ボーデク社長は、JITの考案者であるトヨタの技術者、大野耐一(当時、トヨタ自動車工業株式会社相談役)を、質問攻めにしたが、大野の答えはシンプルなものだった。

 「すべてヘンリー・フォードの『自伝』から学んだのです」

 驚くべきことに、ボーデクが、同書―正式なタイトルは『Today and Tomorrow』―を入手するのに、数年の月日が必要だったという。この稿を起こすにあたって、私の手元にある、フォードの自伝、伝記は今のところ前掲の自伝―『ヘンリー・フォード自伝 藁のハンドル』竹村健一訳―も含めて四冊で、『技術者ヘンリー・フォード』ルイーズ・ネイハート著、村岡東吾訳と、「ヘンリー・フォード」井上忠勝(『20世紀を動かした人々第四巻』所収)、『デトロイト・モンスター 自動車王フォード ザ・アメリカ 勝者の歴史8』大森実、だ。

富裕な人々ではなく、大衆を顧客として考える

ヘンリー・フォード(1863~1947)自動車会社「フォード・モーター」を 築き上げた彼は、 幼少の頃から機械いじりを趣味としていた

 ヘンリー・フォードのなした偉業に対して、その著書が入手困難であるというのは、何とも腑に落ちない気がする。アメリカ製造業の斜陽を象徴するエピソードと云ってしまえば、その通りなのだろうが。

 ボーデクは、その自伝を読み、フォードがなした偉業に、素直に賛辞を連ねている。

「彼は欠陥ゼロの生産によって、製造工場の最後に品質点検をする必要をなくすことについて語っている。彼は労働者が自分たちの実際に作っているものから、利益を得られるようにすべきだと強く信じていた。また、自動車の価格を半分に引き下げ、労働者の賃金を日給二ドルから五ドルへ増額した。/賃金を二倍にし、同時に製品の価格を引き下げるなど、途方もないことである。しかしフォードは、彼の生産システムをもってすれば、労働者が過去のあらゆる期待値以上に生産性を向上させ、それによって消費価格を引き下げてくれると信じていた。彼の夢は、自動車を、欲しければ誰でも入手できる商品にすることによって、社会を改善することであった」
ヘンリー・フォード自伝 藁のハンドル