コミュニケーション能力の「ある人」と「ない人」【ビジネス篇】

『わかりあえないことから』著者・平田オリザ インタビュー

ちゃんと右往左往することが大切

──そもそも、いまの若手社員より管理職世代の人たちのほうがコミュニケーション能力が「ある」というなら、コミュニケーション能力の「ない」若手社員とも、うまくコミュニケーションがとれる気がします。

平田 その通りだと思います。コミュニケーション能力というのは、地域や時代によってさまざまなんだという大前提がないと、議論にならないんです。

 中高年の男性は、自分たちが持っているコミュニケーション能力を一つの基準として、それと同じものを持っているか、持っていないかによって、若者のコミュニケーション能力が高いか低いかを問題にしている。でも本当は、いまの若者たちは別のコミュニケーション能力を持っていると考えるべきなんです。

 世代によっても、男女によっても、それは違うかもしれない。そういうことを認め合ったうえで、じゃあどうするか。この組織ではどういうコミュニケーションを重視するかということについて、コンセンサスをとっていくことが重要です。

 その前提がないと、コミュニケーション能力が「ある」「ない」という議論は、まったく不毛なものになってしまうんです。

──本書の中では、企業の人事担当者が新卒採用するにあたってもっとも重視した能力について、「コミュニケーション能力」が9年連続でトップになっているという、日本経団連による経年調査の結果を紹介しています。なぜ、企業はここまでコミュニケーション能力を重視しているのでしょうか。

平田 それは単純に言うと、いままでは何となくナアナアで済んできたものが、日本の場合にも、そうも言っていられなくなってきている、という点が大きいと思います。つまり、これまで顕在化せずに先送りして来たこと、たとえば構造改革や政権交代、地方分権、グローバリゼーション、自己責任といったさまざまな問題が、一挙に噴出してきたわけです。

 グローバリゼーションだからロジカル・シンキングだ、クリティカル・シンキングだとパニック状態になって、その場しのぎの、小手先の改革に手を染めるのではなく、「ああ、グローバリゼーションは大変だけど、でも俺たちは日本人だしな」というところで、ちゃんと右往左往することが大切なんだと思います。詳しくは本書のなかで書いていますが、ちゃんと右往左往するにはどうすればいいのかということを、僕たちはいま考えなければいけないと思います。

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