プロ野球深層レポート これが「野村克也ノート」の核心だ
巨人の橋上秀樹コーチ、日ハムの栗山英樹監督、ヤクルトの小川淳司監督みんなあの人の教えを受けていた

週刊現代 プロフィール

「ノムさんはよく『お前ら野球選手なんだから、野球のことを勉強し尽くせ』と言っていた。『考えて野球をすること』をしていないと、歳をとった時に、すぐダメになる。逆に力が劣っても、勉強してきた奴は、引退しても野球で飯を食えるかもしれん。巨人の橋上も秦(真司・バッテリーコーチ)も、現役時代は主力じゃない。ノムさんはいつも誰かを叱っていたけど、小川監督なんて一番怒られていた(笑)。彼も控えが出発点。栗山もそう。みんな相当考えたんだ」(前出・伊勢コーチ)

神様が考えろと言っている

 '10年途中、小川淳司ヘッドコーチが、一軍監督代行に上がると同時にヤクルトに戻ってきた伊勢コーチは、最初のミーティングで怒鳴り声を上げた。巨人コーチ時代に感じたものと似た不安が胸をよぎったからだ。ただし叱りつけたのは選手でもコーチ陣でもなく、スコアラーだった。

「みんな野村さんが監督をやっていた時からの面子ですよ。それがあっさりしたデータばかり。それじゃ選手も身が入らない。データは収集も分析も徹底的にしなくてはならん。いまウチの球団で一番しんどい思いをしているのは、スコアラーですよ」

 それもすべて、選手により役に立つノートを作らせ、より深く広い「準備」をさせるためだ。

「野球選手は心理学者でなくてはならない。投手なら打者が考えていることを、打者ならベンチでもネクストサークルでも、投手の気持ちを想像できないとダメだ。そのためには、試合以外の時間も野球のことを考えてないといけない」

 と語る伊勢コーチの言葉は、巨人・橋上コーチが阿部に授けた教えと相似形だ。「野村の教え」は受け継がれる。それは、「相手の考えを想像する」というアプローチが、どんな仕事にも、人間関係にも当てはまる一つの真理だからだろう。

 先日、野村氏から、「お前のやってること、もう古いんじゃないか」と言われ、伊勢コーチはこう返した。

「それは違いますよ。今だって新しく入ってきたヤツラは、みんな目をギラつかせて聞いているんだから」

 22年前、ヤクルトのキャンプ地、アリゾナ州ユマのホテルの一室。毎日1時間開かれたミーティングは、「野村時間」と呼ばれた。

 ホワイトボードがあっという間に文字で埋め尽くされていく。部屋には、テンポよく書いては話す新監督のダミ声と、ボードに書かれた文字を選手たちがひたすらノートに書き写す、ペン音だけが充満していた。

 そこで野村氏が語ったのは幸福論だった。野村氏は言う。