『日本人のための日本語文法』 著者:原沢伊都夫
~日本語の正体~

 残念ながら、両者の間には、系統の決め手となる音韻対応が見つからないことから、同一系統とは証明されていないが、強い関係性があることは誰もが認めるところである。いずれにせよ、言語の系統という点では、日本語は他言語から隔絶された孤高な存在ではなく、他言語とのさまざまな関係性のなかに存在する言語であると言えそうだ。

 つぎに、言語類型論から見た日本語とはどのような姿をしているのであろうか。ドイツの言語学者、フンボルトとシュレーゲルによる古典的な分類では、典型的な「膠着語」言語であると言われる。文法関係が語順で決定される「孤立語」や文法関係が語の変化によって示される「屈折語」と並び、接辞によって文法関係が表される「膠着語」には、アルタイ語族やウラル語族、ドラヴィダ語族など、多くの言語が含まれる。

 この他にも、語順による分類がある。アメリカの言語学者、グリーンバーグは、S(主語)、V(動詞)、O(目的語)の語順を基に、世界の言語を分類した。理論的には、六つの組み合わせが考えられ、最新の調査によれば、SOV(四九%)、SVO(三九%)、VSO(九%)、VOS(二%)、OVS(〇・七%)、OSV(〇・五%)の順となっている。日本語の語順はSOVであるので、英語などの多くの欧米語の語順(SVO)よりも、汎用性が高い言語であることがわかる。

 言語の系統と類型という観点から見ると、本稿の冒頭で触れたような日本語特殊論は影が薄くなる。日本語は決して特殊な言語ではなく、世界の言語と共通する特徴を数多く持っている、ごくありふれた言語だと言えるからだ。

 では、文法はどうであろうか。言語学の世界では、格関係、ヴォイス、アスペクト、テンス、ムード(モダリティ)、などの文法用語によってそれぞれの言語の仕組みを説明するが、ヴォイスという文法カテゴリーに日本語独自の文法現象を数多く見つけることができる。

 ヴォイスとは、立場の異なることで、動詞や助詞に変化が起きる現象を言う。ヴォイスの代表例は受身文である。「太郎が子供をいじめる」に対し、「子供が太郎にいじめられる」では、主語が「太郎」から目的語である「子供」に変わることで、「子供を」は「子供が」に、「太郎が」は「太郎に」に、「いじめる」は「いじめられる」に変化するのである。

 このような「主語」と「目的語」が入れ替わる文法現象は、多くの言語に見られるものである。たとえば、英語でも、“Taro teases the child”↑“The child is teased by Taro”となり、受身文はヴォイスの重要な形式となっている。

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