ヒトはなぜ眠るのか、研究したら30年にわたる「新鮮な感動」が!

睡眠学のなりたち
井上 昌次郎

とはいえ、古くから人々は「なぜ眠るのか」と問いつづけてきました。それはまた、なぜ生きるのか、なぜ死ぬのかについて洞察することでもありました。さらに、なぜ夢を見るのか、夢がなにを意味するのかという論議にもつながっていました。

不眠や眠気を伴う睡眠障害も、医療の立場から重要な研究課題でした。夜討ち朝駆けという戦略にも、不眠不休という勤務にも、睡眠の操作が欠かせませんでした。狩猟・農業・漁業の世界でも、動物の行動習性に合わせて従事者の睡眠を管理しなければなりませんでした。

睡眠研究は、その出発点からすでに、あらゆる人間活動にかかわる総合的な学術の性質をもっていたのですね。

残念ながら、「睡眠とは、このようなものである」という回答に対して、これまで人々は納得しませんでした。たといそれがその時代の最先端の権威ある学説であったとしても、巨像の一部分しか見せてくれなかったからですね。

睡眠研究が進歩しなかった大きな理由は、再現性・客観性を証明できる方法論がなかったことでした。ご承知のように、研究対象に刺激を与えて同じ反応がいつも引き起こされるか、またその因果関係を分析するのが自然科学の常套手段です。

それなら、眠っている人間や動物に刺激を加えると、どうなるでしょう? 睡眠は姿をくらましてしまいます。それでは、分析したくてもできないではありませんか! 

そんなわけで、眠りの実体はあまりにもとらえどころがなく、主観に頼って分析するほかなかったのです。そのぶんだけ、先入観にとらわれた偽科学的な要素がはびこることにもなってしまいました。それが常識化して、睡眠像はますますややこしくなり、さらには神秘的なものとさえ映ってきたのですね。

ようやく、20世紀に入って睡眠特有の脳波と眼球運動が発見され、睡眠研究に決定的な突破口が開かれました。そして、レム睡眠とノンレム睡眠という二種類の異なる眠りが存在することがわかりました。近頃はどなたもご存じでしょうが、「レム」は急速眼球運動を表す略語です。レムを伴う眠りがレム睡眠、伴わない眠りがノンレム睡眠です。それぞれの役割・様態は、まことに対照的・相補的ですね。

やがて、脳波・眼球運動のほかに、筋電図・心電図を中心に、必要に応じて呼吸運動・皮膚電気活動・酸素飽和度・体動などを同時記録する方法(睡眠ポリグラフ検査、ポリソムノグラフィー)が確立されました。最近では、PET(陽電子放射断層撮影法)やfMRI(機能的磁気共鳴映像法)のような画像解析技術によって、生体内部の動態が観察できるようになりました。

fitbit「FitBit」での睡眠モニターの結果 Photo by Ed Bierman / Flickr

その結果、睡眠中の脳活動が、時間的にも空間的にも、高い精度で解明されるようになっています。