[プロ野球]
上田哲之「監督の資質」

スポーツコミュニケーションズ

松坂に見るWBCの功罪

 ともあれ、人材を育成するというのは、難しい。メジャーリーグには、今季、大型野手が二人も出現した。一人は、エンゼルスのマイク・トラウト。21歳で史上最年少「30本塁打30盗塁」を達成した。もう一人は、ブライス・ハーパー。ナショナルズの19歳。「野球界のレブロン・ジェームズ」の異名をとる(レブロンはNBAのスーパースター)。

 トラウトは右、ハーパーは左だが、二人とも、下半身から始動して柔軟で美しいフォームで打つ。決して、筋肉ムキムキの上体に頼った力任せの打撃ではない。もともと、パワーに頼る打者の多い土壌でありながら、こうして時おり出現するスーパースターは、むしろ柔軟で、美しいフォームを身に付けているところが、メジャーの奥深いところなのだろう。

 ただ、日本には待っていればトラウトやハーパーのような才能が出現する土壌はない。投手は出現するかもしれないが、打者はともかく育成しなければならない。投手中心か、打者中心か、という、野球文化の違いである。その意味では、ついに開花し始めた観のある中田翔の存在は大きい。そして、彼については、4番を外さないことが正解だった。なにしろ、勝負所の後半で活躍したのだから。

 では、中田と斎藤のケースの違いは何か。斎藤は先発しては打たれているうちに、先発することにも、打たれることに慣れてしまったようにみえた。たとえば、8月後半から9月の堂林も、スタメンで出場することにも慣れ、凡打や三振を繰り返すことにも慣れてしまったように見えた。

 同じことは、レッドソックスの松坂大輔にもいえる。現在の松坂は、先発しても、打ち崩されることに慣れてしまったのではないだろうか。その点、中田は、いくら4番で結果が出なくても、それに慣れることがなかった。自分は必ず打てるようになる、という精神を保ち続けていた。

 10月4日、ヤンキース対レッドソックス最終戦を観た。松坂と黒田博樹の投げ合いである。と言っても、松坂は早々と5失点KO。日本野球が生んだ稀代のヒーロー松坂は、残念ながら本来の投球を取り戻すことができず、苦しい投球が続いている。彼がここまで自らの投球のメカニックを崩してしまった原因は、いろいろあるだろう。そのひとつとして、やはり4年前のWBCを思わずにはいられない。あの時、日本代表を背負って明らかに無理をしていた。おそらくは松坂もそれを望んだし、日本の野球ファンも彼の活躍を望んだ。そして、彼と我々の現在がある。

 折から、ヤンキースの地区優勝が決まった後、イチローが紹介してくれたデレク・ジーターのコメントが印象深い。「今日で練習試合は終わった」と言ったというのだ。これからのポストシーズンこそが本当の戦いだということだ。ペナントレースが練習試合ならば、その前に行われるWBCとは、彼らにとってなんなのだろう。ワールドシリーズに勝つ、ということだけを最終目標にすえる超一流メジャーリーガーの考え方が象徴的に伝わるコメントだった。

 山本浩二監督内定という報に接しながら、改めてWBCの功罪を思う。ただ、言えることがひとつある。WBCの監督には、選手育成という能力は必要ない。ただ、「勝つ」という資質だけが求められるのだが――。

上田哲之(うえだてつゆき)1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。