週現スペシャル 涙なしでは読めません 名医が明かした「私が患者についたウソ」 ---「真実」が患者を救うとは限らないから

週刊現代 プロフィール

 聖路加国際病院乳腺外科副医長の矢形寛医師は患者にこんな嘘をついた。

 妊娠4ヵ月で末期の乳がんが見つかった30歳の女性。すでに全身に転移をしており、ステージはⅣ。地方から転院してきた患者だった。

「中絶する選択肢もあったのですが、話し合いを重ねたうえ、『子どもは守りたい』という夫婦の意思で、出産に向けて準備をしながら治療を続けることになりました。病名こそ告知しましたが、とても繊細な方だった。一度地元の病院に戻られたのですが、そこで病状をありのままに伝えられてしまったことでショックを受け、取り乱してうちの病院に戻ってこられたんです。『病状を詳しく聞いてしまうとつらくて眠れなくなってしまいます。厳しい状況であることは、自分が一番理解しています。どうか、つらいからもう本当のことは言わないでほしい』と何度も訴えられました」

認知症を演じる患者

 矢形医師は彼女の思いを受け止め、「悪い知らせ」はその後一切やめて、嘘をつらぬいた。

 検査結果を伝えなくてはならない場面でも、本人には告げられない。「このがんは、薬が効く場合もありますから、頑張っていきましょう」そう声をかけながら抗がん剤治療は続けられ、がん発覚から半年後、無事に出産した。

 しかし、全身に転移したがんが消えるという奇跡は起こらなかった。出産後まもなくして、子どもの命と引き換えに、彼女は息を引き取る。「もしかしたら良くなるかもしれない」という希望は、最後まで捨てていなかった。

「本当は自分でもわかっていたのかもしれませんが、私の口から彼女に『もうだめかもしれない』と伝えることはありませんでした。患者さんの人生はその人のものだから、余命や病状を偽る資格は医師にはありません。だから一定の情報はお伝えしないといけない。ただ、告知の受け止め方は、患者さんが10人いたら10人とも違うのですから、どこまでどのように話すか。医者にはバランスが必要だと思うのです」

 患者家族のためにつく嘘もある。在宅医療を手がけ、これまでに770件以上もの看取りを経験してきたホームオン・クリニックつくば院長の平野国美医師は、患者と結託して嘘をついたことがあるという。

 患者は、軽い脳梗塞を患った92歳のケイさんというおばあさん。娘家族と暮らしていたが、口が達者で、よく娘と口げんかをしていた。ある日、平野医師が訪ねると、いつものように口論の真っ最中だった。

「娘さんはトイレ掃除が大変だからオムツをつけてくれと言い、ケイさんは絶対に嫌だと突っぱねて口論しているわけです。『先生、聞いてやってよ』と、娘さんが私に加勢を求めてきた。するとケイさんは、私を見ながら、『おや、どなたさんだったかの?』とトボけたんです。都合のいいときにボケるものだと思っていたら、娘さんが台所に立った隙に、ケイさんが私に小声でこうささやいた。『先生、あのね、ホントはボケてないのさ。ふりをしているだけ』と。驚きましたね」