週現スペシャル 涙なしでは読めません 名医が明かした「私が患者についたウソ」 ---「真実」が患者を救うとは限らないから

週刊現代 プロフィール

「その患者さんは私にこう言ってくれました。『うちの娘が、診てもらうなら先生が絶対いいからって。だから、僕は先生がいいんです』と。娘の気持ちを思って、最後まで私たちの嘘につきあってやろう、と心に決めておられたような気がします。あの患者さんにとって、これが父親として成し遂げた最後の仕事だったのかな、とも思えるのです」

 助かる見込みのない患者と向き合うのはつらい。やむにやまれず数々の嘘をつかざるをえなかった大圃医師は、治らない進行がんの患者を少しでも減らしたいという思いから、早期発見・早期治療に直結する内視鏡検査や内視鏡治療の専門医を目指すようになった。現在は早期がんの内視鏡治療の第一人者に数えられるようになり、年間500例と全国屈指の治療数を誇っている。大圃医師の内視鏡治療で助かった患者は、延べ2500人を超える。

「早期の治りやすい敵だけを相手にやっていると思われてしまうかもしれません。でも、内視鏡治療をすることで、やらなかったら進行がんになっていた人たちが救われているのは間違いないわけで、それだけが私の拠り所なのです」

 医師が患者に嘘をつく---。医療の現場には、医師が患者や家族を思うがゆえに、戸惑い、ときに悩み苦しみながらもつかざるをえない嘘がある。

妊娠中にがん発見

 嘘をつくべきか、つかざるべきか。心ある医師を悩ますのは、大圃医師のケースに見られた絶望的な病名や余命告知が多いといえるだろう。なかでも死病と言われてきたがんは、かつては嘘を告げることが当然視された病気だった。

 胃がんは「胃潰瘍」、大腸がんは「ポリープ」、肝臓がんは「胆石」などと告げるのは常識。家族へ本当の話をする際は、家族が患者と顔を合わせないようにスタッフ専用のエレベーターを使わせるほど徹底されていた。転移したがんの画像は本人には見せないなど、さまざまな嘘が日常的に飛び交っていたのだ。

 15年ほど前から告知は徐々に一般化し、逆に近年の医療現場では、病名から病状、ときには生存率や余命まで一切を本人に告げ、治療法を患者に選ばせる病院も増えた。「真実」を告げるのが医者の義務という風潮が支配的である。

 外科医歴40年、生涯手術数は5000例を超える都立駒込病院名誉院長の森武生医師は、こうした告知のあり方を批判する。

「『あなたは55%の確率で死ぬ。45%は助かる』というような言い方を、がん告知の基本のように考える医師が増えています。でも、これは正しいやり方とは思いません。生と死はオールオアナッシング。生存率は医学的には正しくとも、無責任な医師の保身でしかない。治療法にしても、例えばある抗がん剤はよく効くかわりに、致命的な合併症で死ぬ確率が50%あるというとき、最近の医者は『どうしますか?』と患者に選ばせる。これも無責任です。

 そうではなく、医者が個々の患者が抱える事情をよく知ったうえで、もちろん強制はできないけれど、『僕はこれを勧める』という治療法を選んであげる。そうした治療の過程で、医者が患者個人の背景を知り、真の意味での手助けをするとなったら、時と場合により『医者の嘘』が出てくることもあり得て当然です」