「シュレーディンガーの猫」は生きている!?

有名な「猫」のパラドックスが解けた!
古澤 明 プロフィール

 という諸々の理由により、光を使ったシュレーディンガーの猫実験が考えられた。まず光は、前述したように光子という量子の集合体である。また、その集合体であり、マクロな目に見える存在としてレーザー光線がある。レーザー光線は純粋な古典的波動と考えてよく、ご存じのように干渉する。

 つまり、位相が同じ波同士は強め合い、位相が反転している波同士は弱め合う。別の言い方をすると、位相により光を区別できることになる。したがって、光を用いたシュレーディンガーの猫(状態)とは、マクロで古典的な存在であるレーザー光線において、反転する二つの位相が同時に存在する「重ねあわせ状態」ということになる。

 もちろん、この状態は極めて量子力学的な状態となっている。なぜなら、古典力学的には、位相が反転した二つの波は打ち消しあい、なくなってしまうからである。量子力学的な「重ねあわせ状態」であって初めて、これら二つが同時に存在することが許されるのである。したがって、実験的なトライとしてはこのような位相反転した波が同時に存在している摩訶不思議な状態を生成することになる。

 以上のことを筆者らは実際にテーブルトップで実験を行っている。とても楽しく、面白くやっているのであるが、周りの人にその面白さを説明するのがとても難しい。なぜなら、猫やレーザー光線という我々が見ることのできるマクロな存在と、原子や光子というミクロな存在の間では、一見すると矛盾することが起き、とても受け入れがたいと思うからである。

 そこで、普通の人に少しでも良いから我々のやっていることの面白さをわかってもらうために、今回『「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!』(講談社ブルーバックス)を書き下ろした。

 筆者が勝手に思っているだけかもしれないが、最も難しい点は、原子や光子といった量子の集合体で猫や光といったマクロな存在が出来上がっているのに、マクロな存在である我々の世界では、量子性というものを感じることがないことである。実は、これには訳がある。

 特に原子の場合、そのエネルギースケールは温度揺らぎと同程度なため、通常の場合、温度揺らぎのため原子の量子性、つまり波(ド・ブロイ波)としての性質は失われている。一方、光子の場合(特に可視光の場合)、そのエネルギースケールは温度揺らぎに比べて桁違いに大きいため、温度揺らぎの影響は受けずに量子性を保つことは容易である。

 しかし、光は光速で飛び回っており、一所に留まることはないから、通常光子という粒子を見ることはできない。したがって、我々のマクロな世界で量子性を感じるためには、量子性を保ちやすい光子の集合体である光を用いて、その中の光子を可視化するのが早道ということになる(筆者の勝手な思い込みかもしれないが)。

 このような考え方に基づき、筆者は拙著において、まず光子とは何かということを解説した。光子は粒子のような数えられる存在なのであるが、一方で波でもある。これは原子という粒子が温度揺らぎの非常に小さい低温ではド・ブロイ波であるのとほぼ同じである。ただ、少し違うのは、光の場合エネルギースケールが温度揺らぎに比べ桁違いに大きいため、絶対零度での話になるのである。