食で紡ぐ昭和の名作ドラマ物語 ふぞろいの林檎たち

ふぞろいの林檎たち主題歌『いとしのエリー』が流れるオープニングも懐かしいこの名作は、シリーズとして’97年のパート4まで続きました。
■出演/中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾、 手塚理美、石原真理子、中島唱子ほか
■販売元:アミューズソフトエンタテインメント

今は数少ない商店街の典型的な店が舞台

「ふぞろいの林檎たち」の第1シリーズが放送されたのは昭和後期の’83年。バブル景気の直前で、大学生は遊んでいても就職先に困らなかった。

 だけど、それは一流大の学生の話。定員割れの無名工業大に通う3人の若者(中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾)は、彼女も出来ず、就職のあてもなく、鬱屈した日々を過ごしていた。

 脚本を書いた山田太一氏にあらためて尋ねたところ、当時をこう表現した。

「あのころは社会が安定していたからこそ、一流からハミ出てしまった人は苦しんでいました。逆にハミ出ない人たちは不当に呑気でした」

 だが、誰にだって青春はある。3人は周囲の偏見や親子関係、将来について悩みながら、徐々に愛や友情を知り、成長していく。

 この青春群像劇、実はどの登場人物の背景にも山田作品ならではの味つけが施されていた。中井の実家である酒屋「仲屋商店」を継いだ兄(小林薫)は、嫁姑問題に心を痛めていた。柳沢の実家はラーメン屋で、両親(石井均、吉行和子)は親子間の断絶という悩みを抱えていた。

 どこにでもある商店街の平凡な酒屋とラーメン屋。その後、くしくも両者は時代の荒波にさらされていく。町の酒店は酒類小売業免許が’98年から段階的に事実上自由化されたことでコンビニや激安店などへの再編が加速し、現在その数は放送当時の半数程度。

 こだわりのない普通のラーメン屋はチェーン店に押され、廃業が相次ぐ。

 バブル後の規制緩和による競争激化で、様変わりした商店街を象徴する2業種。山田氏はこうした変化を見据えて設定を考えたのか?

「そんなことはありません(笑)。食に関わることに限らず、社会は変わっていくものです。一流と言われていた大学や会社についての考え方も同じ。一流と言われているものも蓋を開けてみたら、そうでもないことが見えてきた。結局、それぞれの固有の人生を、どう生きて、どう納得するかでしょう」

 食の場面として印象に残っているのが、仲屋商店につながる奥座敷での御飯。かつて商店には奥座敷があり、店主たちは食事や茶をとりながら客を待った。

 3人が下宿や自室で飲む時は国産ウィスキーの水割りで、主に2級のレッド。学生たちの定番だった。’85年のプラザ合意を契機に円高が進み、輸入酒が大衆的になっていく。さらに酒税法改正でウィスキーの級別が廃止になり、2級が酒税面で優遇されなくなったのは’89年だった。

 当時の学生にとって、特級のオールドは高嶺の花。筆者がたまたま手に入れた時は、飲み干した瓶にレッドを詰めたもの。友達に飲ませても、オールドと信じて疑われなかった。あの頃の酒の味は、多分に気分の味だったのだろう。

文・高堀冬彦
スポーツ新聞の元文化部記者で、放送記者クラブに約15年間所属。おいしくて安いNHKとフジテレビの社員食堂を愛した。TBSの1階喫茶のカレーも好物。48歳。
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