米国で数少ない全国紙の一つであるUSA Todayが、そのウエブ・サイト(ホームページ)の刷新に取り組んでいる。すでに公開されているベータ版を実際に使ってみると、従来の新聞社HPとは全く異なる作りになっていることが感じ取れる。
それは、もちろんパソコンからも閲覧できるが、主要なターゲット・デバイスは間違いなくタブレットである。筆者は実はパソコンから使ってみたのだが、本来ならキーボードやマウスを使うよりも、指によるタッチ操作の方が明らかに適している。
この新しいUSA Todayのサイトは従来の静的なホームページ(ウエブ・ページ)というよりは、もっと動的でインタラクティブなウエブ・アプリと呼ぶに相応しい。内容的には、活字(記事)と動画、写真、サウンドなどがバランスよくアレンジされており、そのUI(ユーザー・インタフェース:使い勝手)も非常に凝った作りになっている。
たとえば「スポーツ」から「旅行」など異なるセクション間を移動するときには、画面全体が心地よくスライドしたり、あるいは紙のページをめくるようなアニメーションが施されている。つまり、完全に電子ブック的なコンテンツになっているのだ。
この種のコンテンツは、2010年にアップルが「アイパッド」を発売すると同時に、世界中であちこちの出版社が制作して注目を浴びた。当時は「動く雑誌」などと呼ばれ、電子出版物の未来を指し示すコンテンツとして大きな期待を集めたが、その後の経過を見る限り、(少なくとも、これまでのところは)期待外れに終わっている。
つまり今でも、そのようなコンテンツは存在するのだが、どちらかというとマイナーな存在にとどまっている。そこには次のように幾つかの理由が考えられる。
①確かに動画やアニメなど、いわゆるリッチ・コンテンツは読者の関心を惹きはするが、それは本来、読者が出版物に求めているものではない。つまり、たとえ電子化されようと、出版物はあくまでも活字を読むためのもの、という意識が読者の頭に根付いている。
②これらリッチ・コンテンツ系の電子出版物は、アップ・ストアやアンドロイド・マーケット(現グーグル・プレイ)など各社固有のアプリ・マーケットから、いわゆる「ネイティブ・アプリ」として配信(販売)された。この際、特にアップルのコンテンツ審査が厳しい上に、その売り上げの3割をアップルに手数料として支払わねばならなかったことなどから、出版社が徐々にやる気を失ってしまった。
③リッチ・コンテンツは電子化されたファイルが大型化してしまい、たとえ3Gブロードバンドのような高速回線を使っても、ダウンロードするのに数十分もかかってしまう。つまり入手に手間がかかるので、敢えてそれをダウンロードしてまで読もう、という人は少なかった。
④リッチ・コンテンツ系の電子出版物は、制作コストがかなり大きくなってしまい、出版社にとってペイしないビジネスになってしまった。