八月末に著書が発売になった。タイトルは『凸凹サバンナ』。昨年、『完盗オンサイト』で第五十七回江戸川乱歩賞をいただきデビューした私の、これが受賞第一作となる。
この話は、どんなふうにできあがったのか。物語はフィクションだが、平坦な道のりではなかったその過程について、ここでは、ほんとうのことを書きたいと思う。
当初、私は女性を主人公にした話を受賞第一作にしようと考えていた。昨年の秋のことだ。まず主人公の職業、物語の背景、そしてタイトルを決めた。主人公と同じ仕事に携わる女性から話を聞き、どんなキャラクターにするか、おおまかなイメージも決まった。
よし、行ける!
滑り出しは順調に思われた。だが、すぐに考えが甘かったと理解した。主人公の女性を頭の中の舞台に上げ、
「ちょっとやそっとではへこたれない、明るいキャラクターで演技をお願いします」
と指示を与えたのだが、そのとたん、彼女からクレームが出た。
「ぜんぶ、アドリブじゃできません。大枠だけでも、話の流れを作ってもらわないと」
もっともな意見である。
私は二十代のころから作家を志してきた。言い換えれば、今までそう多くはないが、そう少なくもない物語を、頭から引っ張り出して文字にしてきたということだ。克明なイメージが浮かんだものもあれば、通過点をいくつか決めただけで取りかかったものもある。とはいえ、どの作品においても、書きはじめるときには、少なくともスタートとゴールは見えていた。だというのに、この話では、そのとっかかりさえつかめなかったのである。
ちょっとワケアリの法律事務所を開業したばかりの田中貞夫。集まってくる依頼は、どれも奇妙で一筋縄ではいかないものばかり。そして、実は田中にも・・・。事件で心が暖まる? 掟破りのリーガル・ミステリー。 江戸川乱歩賞受賞第一作
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