出口治明(ライフネット生命社長)×山田まさる 【第3回】
「まずは会社のファンになっていただき、そのあとではじめて保険が売れるのだ、というのがわれわれの考え方です」

出口治明さん(ライフネット生命保険株式会社代表取締役社長)と山田まさるさん(株式会社インテグレート取締役COO)

第2回はこちらをご覧ください。

山田: 本業であるライフネット生命を育てると同時に、いろいろな日本の社会の問題点を指摘されていますが、あるいは逆にそういう問題についてのプロジェクトに関わってくださいというお声がかかった場合は、出口社長はそういうものに関わっていこうとされますか?

出口: でも、僕はこのベンチャーを作ってしまったので、ライフネット生命を大きくすることが僕のいちばんの社会的使命です。ただ、そういうことを頼まれたら断らないというふうには言っています。フランスを真似して必死で人口を増やす政策を採るべきだということなどを毎週「ダイヤモンド・オンライン」というサイトにコラムを書いて情報発信しています。

山田: 最近、子供の数もそうですが、子供が生まれてくるときに小さいという問題もあって、低体重児が増えているそうですね。

出口: それはやっぱりフリーターを原因に20代、30代が貧しいからで、この国はあまりにも歴史に学んでいない気がしますね。人間の歴史は洋の東西を問わず全部同じですが、何が大事かと言えば、例えば船が沈むときにはまず子供、女性、男性、高齢者の順番でボートに乗せます。まず最初は小さい子供を船に乗せて、その次は赤ちゃんを産むことができる女性を乗せ、その次に男性で、最後に余裕があれば高齢者を乗せるのです。その当たり前の議論が忘れ去られていますね。

会社経営はデートと同じこと

山田: ちょっとここからは僕の個人的な質問なんですが、社長の背景には圧倒的な読書量があるという話をよく聞くんですが、読書量とも直結すると思うんですが、さっき「この国は学んでいない」とおっしゃったことについては、どうしたら改善していくんですかね?

出口: 国よりも、もっとひどいのは、大企業がなっていないということです。例えば就活。企業側が青田買いを即刻やめて、「就職活動するには、成績証明書と卒業証明書を持ってこい、それがなければ採らない」と言い切ればいいのです。大学は勉強するところですから。それがグローバルな基準です。

 なんでみんな大学に行くのかと言えば、良い大学に行って良い会社に入りたいから行くわけでしょう。それは人間の性なので、「大学は勉強するところだから成績が良くなければ採らない」と言い切れば学生はみんな勉強するんですよ。ですから、今の日本で一番ダメなのは大企業なんです。それに尽きますね。だから株価が下がって経済が低迷しているということで、ちゃんとそれなりのバランスはとれているんですが。

 戦後のキャッチアップ型経済の時代は、高度成長と人口の増加という車の車輪が上手く回っており、考えなくても一所懸命働けば、所得倍増が実現出来る幸せな時代でした。常に労働力が不足していたので、青田買いという新卒一括採用システムが時代に合致していた。

 しかし、これからの日本は課題先進国で、「自分のアタマで考える学生」が必要とされているのに、大学は10年1回のごとく青田買いを止めない。この前ツイッターで大学の先生が、「企業の人事担当の皆さん、私のゼミ生を大学に返してください。今が一番勉強に大切な時期ですから」と訴えていましたが、このようなツイッターを大学の先生にさせるような企業の株価が上がるはずがないと思いませんか?

山田: そういう意味では、先ほどのお話にもあったように、企業は商品やサービスだけではなく企業のあり方そのものがもっと変わっていかなければいけない、ということですね。

出口: 企業の経営者が競争に負けつつある。世界の経営者にはとても勝てない。それは青田買いで買われて、武者修行もせずに上に上がってきているからで、日本で最もダメなのは大企業の経営者だと思います。こんな時代になっても、経済界の偉い人たちは「政府がちゃんと成長戦略を描かないからこの国はダメになった」と平気で言っています。本当に恥ずかしいです。

 なぜなら、役人も青田買いですから、商いをしたことなんて1回もないし、わが国では官と民の交流もない。大学を卒業してずっと役人をやってきた人に成長戦略が描けるはずがない。これも、戦後の時代ではアメリカの真似をしてGEとかGMを作って、電気産業や自動車産業を興せば国が豊かになる、とわかっていたので、「1940年体制」と呼ばれた戦後の統制・談合経済の下では、役人が成長戦略を描けたのですが、それは、極論すれば、アメリカの産業政策を日本語に直しただけで、その通りに真似をすれば高度成長が達成できたのですよ。

『統合知』
著者:山田 まさる
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 その段階を過ぎた今、政府ですから、キャッチアップ型経済は終わったと言っているのに、商売をしたことがない役人にこれからの未来の成長戦略が描けるはずがない。それなのに、企業の経営者が平然と「成長戦略がないからこの国がダメになったんだ」と他人事のように言う。こういう意識を持っている人が経営陣にいるから、この国はガタガタになったんだと僕は思います。

山田: 逆に、私どももそうなんですが、中小企業でこれから伸びていきたいというところがたくさんあって、社長がおっしゃるように自分の役割は小さいかもしれないけれども、本当に日本の国をもっと良い形で次の世代に渡したいという、そういう同じような想いを持っている中小企業の経営者はいると思うんですね。

出口: 全世界的に見ても大企業は中小企業から生まれるわけですから、中小企業こそが日本の将来の宝ですね。だから、みんなでどんどん会社を興せばいいと思います。僕は40代、50代こそが起業すべきである、と言っています。なぜかと言えば、日本では起業リスクがいちばん少ない年代は40代、50代だと思っているからです。

 そのくらいになれば、自分の子供の出来もある程度わかっているでしょう? そうすると子供にどのくらい教育投資すればいいのかも大体目途がつくし、サラリーマンだったら会社のなかで社長になれるかどうかもわかるでしょう。

 自分の行く末もある程度わかり、しかも20年、30年働いてきているわけですから、ノウハウも身につき、社会の仕組みもわかっているわけですから、起業するリスクが少ないと思うのです。しかも日本の今のような状況では、大企業が不必要に優秀な人材を抱え込んでいますから、社外に出来れば活躍の場も広がる。大企業で働いている40代、50代こそがどんどん起業して好きなことをやり始めれば、若い人もそれを見て起業するようになる、と。

 ロールモデルとなるべき大人が「若者はだらしがない。もっと起業しろ」と言って、自分はサラリーマンでぬくぬくしている。それで誰が起業するかという話でしょう? 40代、50代こそが社会を変えるようにまず動くべきだと思うのです。

山田: これから私なんかもすごく思うのは、やっぱり人をどうやって育てていくのかというのはすごく悩むところなんですね。それで、ライフネット生命さんはどうかはわかりませんが、弊社なんかもわれわれの想いに共感して入ってきてくれているんですが、やっぱり温度差はありますね。

 創業当時からの人間で、近しければ近しいほど想いが伝播しているんですが、今100人規模になってから入ってきている人は、大分立派な会社に見えていて入ってくる人たちなので、その温度差のようなものをどう埋めていこうかというのはすごく悩むところです。社長はその辺についてはどんなやり方をしておられますか? 逆にそういうことはあまり感じられないんですか?

出口: ライフネット生命は、まずマニフェストです。「正直に経営し、わかりやすく、安くて、便利に」、これだけの簡単な言葉で済むのにそれを24の文章に書き下ろしているのですが、なんでそんなことをやっているのかと言えば、会社のコアバリューのような大事なことこそ丁寧に書いておかなければ、人が増えたときにブレが生じるからですね。

 たとえば「信念」とか、わけのわからないコアバリューだったら、人によっていくらでも解釈が出てくるじゃないですか。でも、それがかみ砕いて書いてあれば、みんながそれを読んで納得するので、ブレないんです。だから、これも一種の情報公開だと思いますが、会社の内外を問わず、会社が大事だと思うことは丁寧に紙に書き、言葉にしてオープンにすることが全ての出発点ですね。

山田: 日常的な社内コミュニケーションみたいなことについては?

出口: それは普通の会社と同じようにやっているだけですが、社長の仕事の95%は、社員が朝起きたときにライフネット生命に早く行きたいと思う楽しい風土を作ることで、あとの5%はわからないことを決めることだと思っています。こんな話をすると、「どうすればそういう楽しい会社ができるんですか?」と聞かれるんですが、僕は「方法なんかない」と言っているのです。

 それはデートと同じです。「男性から誘いを受けたときに、本気か遊びかわかりますか」と女性に聞くと、大体の女性は「何となくわかる」と答えます。人間という動物は感情を持っていますから、本気か遊びかは直感で何となくわかるんですよ。

 日本の大会社の社長が演説しているのを聞いて、その社員に僕が「立派なことを言っていますね」と言ったら、社員が「出口さん、あれは建前だけで本音は全然違いますよ」ということがよくあるのです。それは、その社長の日々の行動を見て、社員が判断しているのです。

 先日もある会社の役員の方とコンタクトセンターの話をしていて、「コンタクトセンターのモラルを上げたいし、コンタクトセンターはとても重要だと思っているんだけれども、それを伝えるにはどういう方法論がありますか?」と聞かれました。

 それで「コンタクトセンターはどこにあるのですか?」と聞くと「本社のなかに置いてあります」と。青森とか沖縄みたいに遠くにあるわけではないんですね。だから僕は「あなたは大体何回くらいコンタクトセンターに足を運んでいますか?」と聞くと、「1ヶ月に1回は行くようにしています」と。

 「僕はほぼ毎日コンタクトセンター行っています」と答えたんですよ。「本当に重要だと心のなかで思っているのだったら、自然に足が向くはずです。いくら責任者がコンタクトセンターが重要だ、本社の顔だ、と言っていても、1ヶ月に1回しか管理本部長が覗かないようなら、そのくらいのウェイトであるのだということは、誰でもわかるでしょう」と。

 だから方法論の問題ではないんですよ。本気で想っているかどうかということを、経営陣が腑に落ちるまで考えて、その想いを持ち続けるかどうかなんです。強い気持ちがないと社員にはどんなことをやっても伝わらない。根本にあるのはやっぱり経営陣が一体となって本当に楽しい会社を作りたいと思っているかどうか、それはもうデートと同じことなんだ、と僕はいつも言っています。だから、リーダーにはとくに想いが大事なんです。

 極論すれば、「どうしたらこんなことができるのか」とか、そんなことを問うこと自体がもう道を外れていると思うんですね。だから、「デートするときのことを考えてください、ほとんどのことはわかると思います」とよく言っています (笑)。

山田: 今のお話をうかがって、毎日従業員とデートするという感覚で、従業員を誘い続けるということが重要なんだな、と僕は思いました。それを強く強く想わないといけなんだな、と。

出口: ライフネット生命はお客さまの声を直に聞くのはコンタクトセンターだけなので、出張しているときは無理ですが、東京にいる場合は、僕は開業以来ほぼ100%1日1回はコンタクトセンターを覗きに行っています。それは別に、こうやったらモラルが上がるだろうかというのでは全くなくて、本当に心配だからです。みんな元気な顔をして電話を受けているだろうか、と。本気で想えば自然に行動に移せるはずです。

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