二宮清純レポート日本球界・最速のサウスポー吉川光夫(24歳・日本ハムファイターズ)選手を「大化け」させる言葉の魔術

週刊現代 プロフィール

奪三振へのこだわり

 前監督の梨田もカーブの良化を変身の要因とみる。

「これまではカーブを大きく曲げようとして腕が振れていなかった。今は(下に向かって)叩く感じで投げていますね。これだと腕の振りがストレートと同じ軌道を描くからバッターにはわからない。この好調はずっと続くと思いますよ」

 当の本人はどう思っているのか。

「変化球も真っすぐ同様、腕を振ってアバウトに投げようと考えています。だいたいのゾーンに決まれば、真っすぐを狙って振りにきたバッターはタイミングが合わないでしょう。ファウルになるか、びくついて見逃してくれるか・・・・・・」

 今季は奪三振王の期待もかかる。目下のところ105奪三振でリーグ4位。

 同じ三振でもピッチャーには〝見逃し三振派〟と〝空振り三振派〟がいる。前者の典型が奪三振王に3度輝いている現巨人投手総合コーチの川口和久だ。「バッターにスイングすら許さない。手も足も出ないだろう、というコースにピタッと決まった時の三振が最高だった」と振り返る。

 一方、こちらも3度の奪三振王に輝いている江川卓は後者だった。スピンのきいたストレートがバットの上を通過する瞬間が快感だったと語っていた。

 吉川の場合はどうか。

「僕は〝空振り派〟ですね。特にそれがボール球だった場合、キレがあったから空振りしたと思えるんです。理想はバットの上を通過するようなボールですね。

 でも仮に空振りがとれなくても、高めの真っすぐでしっかりファウルがとれていれば僕は納得できます。ボールに勢いがないとファウルがとれませんから。だからファウルがとれているかどうかは、調子をはかる上での、ひとつのバロメーターだと思っています」

 吉川は個人としての今季の目標を「200イニング」に置く。それが先発ピッチャーとしての使命だと考えている。

「ダルビッシュさんが抜けたことで200イニング(昨季232回)が丸々空いた。それを埋めることが僕の仕事だと思っています」

 サウスポーから「未完」の二文字はとれたが「完成」には程遠い。大器はかすかにその片鱗を示したに過ぎない。

「週刊現代」2012年9月8日号より