二宮清純レポート日本球界・最速のサウスポー吉川光夫(24歳・日本ハムファイターズ)選手を「大化け」させる言葉の魔術

週刊現代 プロフィール

 ストレートでストライクが取れないから、今度は変化球に頼る。その変化球もストライクが欲しくてボールを置きにいくから体が緩む。もうバッターには〝変化球ですよ〟と、わざわざ口にして投げにいっているようなもの。腕も振れていませんでしたね」

 入団3年目の7月に結婚した。すぐさま子宝にも恵まれた。

 しかし、年俸は右肩下がり。今季を迎えるまでの6勝は、全て結婚前のものだった。

---お嫁さん、居心地が悪かったのでは?

「友だちから〝あんたが悪いんじゃない〟とよく言われたそうです。彼女に辛い思いをさせないよう、頑張らないといけないとは、ずっと思っていました・・・・・・」

 覚醒のきっかけは、思いがけない指揮官の一言だった。日本ハムは昨シーズン限りで監督の梨田が退任、解説者の栗山英樹を後任に起用した。

 秋のキャンプ、栗山は吉川に会うなり、こう言った。

「来年ダメならユニホームを脱がせるからな!」

 温厚な栗山が珍しく刺激的な言葉を口にした背景には、こういう理由があった。

「僕は1年間、吉川にローテーションを守らせてやりたいと考えていました。だから〝四球をいくら出したっていい。その代わり、オマエが投げたいボールを投げてくれ。それならオレも納得する〟と。

 といっても、目標を達成するためには、期限を決めなければならない。いつまでも待っているわけにはいかない。本人に危機感を持たせる意味も込めて厳しいことを言ったんです」

 この一言が、ずっと吉川の心の底にわだかまっていた四球に対する不安を振り払った。

「あの一言が僕には大きかった」

 本人も、そう認めている。

「野球に限っては気持ちの切り換えが下手でしたね。四球を出すと、それを後悔してバッターに気持ちを集中させられなかった。要するに終わったことばかり気にしていたんです。

 しかし監督から〝納得するボールを投げろ〟と言われてから、四球を出すことを恐れなくなった。しっかり腕を振った中での四球なら仕方がないと、自分でも割り切れるようになったんです」