著名人10人が薦める「私の人生を変えた、この1冊」

フライデー プロフィール

「読書って〝心の栄養〟を摂る行為だと思うんですよ」

 なんとも彼女らしい表現だが、なるほど、言い得て妙かもしれない。

「エイダ」山田正紀 著

與那覇 潤(歴史学者)
1979年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部超域文化科学科卒、同大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程満期退学。現在は愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科准教授。専攻は日本近代史

「スタンダードな歴史研究は、コツコツと事実を発掘して、それを積み上げていく行為。一方、自分は〝見つかった素材をどう物語るか〟のほうにも歴史を学ぶことの醍醐味があるんだと伝えたい」

 歴史学者の與那覇潤氏(32)はそう話す。昨年11月、「中国化」を切り口に日本社会の特質を論じた異色の歴史書『中国化する日本』を上梓。今、若手で最もホットな日本史研究者が挙げた1冊は、なんとSF小説の大家・山田正紀が著した『エイダ』(早川書房刊)である。

「〝物語る〟ことの力について、インスピレーションをいただいた本なんです」

エイダ』は、歴史改変をテーマにしたSF小説だ。作中ではメアリ・シェリーやコナン・ドイルら歴史上の実在の人物と、彼らが創作したフランケンシュタインやシャーロック・ホームズら虚構の人物が同時に登場し、物語をつむぐ。

エイダ
山田正紀 著

「物語の中で生まれた架空の存在が、あべこべに現実の世界を改変する力を持つ、というSF作品なんです」

 與那覇氏は高校・大学時代にSFに傾倒し、そこで本書に出会った。フランケンやホームズのような既存のストーリーの要素を、語り手が独自の視点で切り取り、別個の新たな小説を作り上げる。『エイダ』のそんな手法が「歴史の叙述にも通じる」と感じたという。この気づきが、ユニークな歴史観につながった。

「語ったり書いたりするという行為自体が、良くも悪くも現実を変容させてしまうんです」

 史料の書き手の価値観や話題の取捨選択で、生まれる物語は大きく変化する。

「例えばナショナリズムも物語の一種で、絶対的な常識とは限らない。しかし、それが時には人間を暴走させます」

 それぞれの個人や国家が互いに異なる物語を抱けば、争いが起こる。昨今の剣呑な日中・日韓関係を連想する指摘だ。