栗山英樹(日本ハムファイターズ監督) 小手先の技術より、最後の勝負は「愛」だよ

二宮清純レポート
週刊現代 プロフィール

「正直言って受け入れ難かったですね。当時の僕には、なぜ野村さんが僕を否定するのかわからなかった。ただ、時間がたつに従ってわかるようになってきた。

 あの頃、ヤクルトには柳田浩一や飯田哲也といった僕と同じタイプの若手が出始めていた。もし僕が監督でも、将来のチームのことを考えれば、そっちを使っていたと思うんです。

 だから(野村さんとの時間は)僕にとっては宝物なんです。あの経験があるから、今選手たちに対し、きちんと向き合うことができるんだと思います」

 私が栗山に初めてインタビューしたのは'89年の秋だから、ちょうど引退の1年前だ。

 学生時代、学習塾で中学生に数学を教えていたこと、国立大出身ながら英語が苦手なこと、少年時代は巨人ファンだったこと、両親はプロ入りに反対したこと、30歳を前にして東京都下に一戸建ての家を購入したことなどが語られている。

 28歳の栗山は引退後の仕事についても言及している。「本を書いてみたい」「ニュースキャスターに挑戦してみたい」。2つとも、それは実現した。ところが「監督をやりたい」とは一言も口にしていないのだ。

 いつ心境に変化があったのか?

「確かに監督をやるとは思ってもいませんでした。ユニホームを脱いだ時点で、僕はもう現場の人間ではないと思っていましたから。ただキャスターをやりながらも、"いつか現場から呼ばれるのでは"と思われるような仕事はしなくてはいけないと思っていました」

胃の中のトラが暴れる

 北海道を本拠地とする日本ハムからのオファーは栗山の心をくすぐった。

「北海道には僕が作った球場(栗の樹ファーム)がある。昔から大好きな土地柄なんです。加えて、ここはフロント主導型の球団。僕がキャスターをやっていた頃、そういう方向が今後のプロ野球界に望ましいと伝えてきました。この球団なら、僕にもやれることがあるのではないか……。そう考えると(就任の決断は)難しくはなかったですね」

 ロンドン五輪の興奮ただ中にある8月2日現在、日本ハムは46勝39敗7分けでパ・リーグの首位に立つ。新米監督としては上々の出来だ。

 それでも「胃の痛い日が続く」と51歳は苦笑を浮かべる。

「特にリードをしている場面で胃が痛み始めるんです。というより、胃の中に棲んでいるトラが暴れ出すような気分になるんです」

 胃の中のトラ!? 長いことプロ野球を取材しているが、こんな表現は初めて耳にした。