ロンドン五輪「感動秘話」 金メダル・内村航平「ここが勝負の分かれ目だった」

松本薫(柔道金メダル)、三宅宏実(重量挙げ銀メダル)、寺川綾(水泳銅メダル)ほか
週刊現代 プロフィール

 といった逸話にも事欠かない。だが津沢氏は、

「強そうなのは見かけだけ。あれで小心者だからね」

 と笑う。前出の矢嶋氏も、

「彼女の持ち味は、常に平常心をキープできること。ケガして笑うのも、痛みに心を乱されたくないから。話題になった『ヘビのような目』も、実は五輪が始まってから見せるようになったものですし、自分の顔を叩いたりするのも意識的にやっている。不安や気負いを払い落とし、自分の感情をコントロールしているんです」

 と明かした。

 優勝直後、父・賢二さんはこう話している。

「5月の福岡の体重別選手権から今日まで、連絡はとっていません。こちらからメールは送りましたが、返ってきていませんしね。相当厳しい練習に耐えてきたのだと思います。でも本人は、家族の前で弱音を吐いたことはありません」

 家族に連絡をとったら、つい「素の自分」が出てしまうことを恐れたのだろう。気持ちの弱さを封印するために、徹底して自分を追い込んでいた。そんな彼女が一度だけ、家族に約束したことがある。高校時代のことだ。当時からジュニアの世界大会を転戦していた松本に、ある日、母がポツリと、「いいわねえ、いろんな所に行けて」とこぼした。すると娘は、「私がオリンピックに出て、家族旅行に連れて行ってあげる」と返したのだという。

「先生、柔道やめたら私ケーキ屋になる」

 常々、矢嶋氏に宣言している松本の趣味はお菓子作りだ。だが表彰式後、「引退はしない。やり残したことがあるから」と語る松本の顔は、「野獣」に戻っていた。

寺川綾(水泳 銅メダル)
決勝1時間前に完成した人生最高の泳ぎ

 女子100m背泳ぎ決勝の1時間前。プールサイドで寺川綾(27歳)は平井伯昌コーチと身振り手振りを交えて語り合っていた。

「準決勝でタッチがうまくいかなかったので、そのアドバイスを受けていました。リラックスして大きく泳いで、ラスト15mのラインが見えたらスパートしてペースを上げる。決勝では平井コーチに言われたことを一つ一つ思い浮かべて、冷静に判断できた」(寺川)

 結果は、平井氏が「寺川綾の完成形」と絶賛するベストパフォーマンスで、人生初の58秒台をマークして銅メダル。日本の競泳女子史上「最年長メダリスト」というオマケまでついた。