ロンドン五輪「感動秘話」 金メダル・内村航平「ここが勝負の分かれ目だった」

松本薫(柔道金メダル)、三宅宏実(重量挙げ銀メダル)、寺川綾(水泳銅メダル)ほか
週刊現代 プロフィール

「前日、コーチにこう言われたんです。『決勝では鉄棒から(予選でミスしたF難度の)コールマンを抜こう。確実に演技してケガしたコウジ(山室)に金メダルを見せてやろう』と。これまで何があっても構成は変えないでやってきたので正直、迷いました。それが決勝前になって『抜いてもいいかな』とスッと思えたんです。4年に一度という重みにこだわってもいいのかな、と。直感というか」(内村)

 いつもの内村だったらあり得ない「妥協」。これが金メダルの「勝負の分かれ目」だったと見て間違いないだろう。

 和久さんが続ける。

「一種目目のあん馬を乗り切ってから、吹っ切れたのか航平の表情が変わった。その後の演技は良かったですね。4年前に北京で負けたとき、『金が取れるよう練習します』と言っていたのを、航平は実行した。小さい頃から、『同じ失敗をしないようにすればいい』と言い続けてきた。それを守ってくれているのかな」

 母・周子さんは演技終了後、内村に好物のチョコバーを贈った。

「北京からの4年間、何もしてあげられず辛かった。でも今日、あの子の満足そうな笑顔が見られて、言葉にならないくらい嬉しい」

 栄光のウラには、魔物と内村家の死闘があったのだ。

松本薫(柔道 金メダル)
小心者が被った「野獣」の仮面

 苦境の日本柔道界に、今大会初の金メダルをもたらした女子57kg級の松本薫(24歳)。

「クインタバレ(イタリア)と戦った準々決勝で"救世主の誕生"を確信した」
と言うのは、卒業後の現在も、松本を指導する帝京大柔道部監督の矢嶋明氏だ。

「あれだけ激しい戦いになれば、息も上がるはず。松本も苦しかったはずです。でも深呼吸すらしなかった。絶対に相手に弱みを見せないのが松本の強さ。それが出ていたので、そこからは安心して見られました」

 現所属チーム、フォーリーフジャパン柔道部の津沢寿志監督師範は、松本の強さをこう表す。

「技術自体は下手クソですけど、あれほど闘争心を剥き出しにして攻める柔道をする選手は、世界中探しても他にいないですね」

 試合の前、ウェイティングルームで大きく身体を揺らし、奇声を上げながらバシバシと全身を叩き上げ、畳に上がれば鋭い視線で対戦相手を睨みつける。「野性味があって本能で生きている」—松本が多くの柔道関係者から、「野獣」と称される所以だ。

「対戦前に『へんしーん』と叫んでいた」「練習中に足を捻挫した瞬間、『ワーハッハ』と笑いはじめた」