米国発の「市場主義経済学」では、いまの危機は解決できない!
『経済学の犯罪』著者・佐伯啓思インタビュー

── たしかにここ近年の日本の状況を見ていると、どちらが正しいかその結果は明らかですね。

佐伯 そう、どう考えても需要が供給に比べて少ないことが問題です。だからいまはむしろケインズ的な考えで短期的には需要を増やすことを考える。長期的には需要が大きくは増えないなかでどのように社会設計をしていくかを考える必要があるはずなんです。でも市場主義経済学が「正しい」経済学になってしまっていると、そうした考えは経済学に反した「間違ったもの」となってしまう。

── グローバル金融危機も同じことですね。

佐伯 リーマン・ショックにせよ、EU危機にせよ、これだけの危機が起こり、なかなか解決への糸口が見えてこないこと自体、近年経済政策として採用されてきた市場主義経済学がうまく機能していないということを示しています。ですから本当はこれに代わる経済学を私たちは考えていかなくてはいけないのです。ところがいまの経済学が「正しい」経済学だと思っている間は、その考えの枠組みからなかなか抜け出るのは難しいので、うまくいかないのです。

グローバリゼーションに対してどのように対応するのか

── この本では、いまの経済学が抱えた問題から、さらに経済学の源流、貨幣の誕生にまで遡り、私たちのこれからの思考のあり方を問うような構成になっていますが、一方で現代の経済世界を見るときの多くのヒントも含まれています。ここで一つあげると、グローバリゼーションの時代になると、むしろ国家の役割が重要になるという指摘も非常に重要だと思いました。

佐伯 たとえばアメリカは、金融市場を自由化し、ドルの力を利用して資本の移動をさらに活発化させることで、新たな金融型成長モデルをつくりました。そこで使われたのが「グローバリズム」というイデオロギーであり、市場主義経済学でした。

 イギリスは歴史的に強い金融市場であるシティを利用して金融自由化の波に乗ろうとしました。ヨーロッパでは一国で対抗するには難しいということで、EUというブロック経済圏をつくりました。ロシアやブラジルは資源、中国は豊富で安価な労働力で世界の資本を集めました。インドの強みはITです。韓国はナショナリズムを喚起し、官民一体となって世界に進出できる企業と人材を養成しました。

 もちろんアメリカにせよ、ヨーロッパにせよ、いまの金融危機のために、そのモデルが壊れつつあるのですが、少なくともここ20年近いグローバリゼーションの時代で各国が自分たちの強みを生かした戦略をそれぞれ持って闘っていました。

── これに対してこの間、日本がやってきたことを一言で言うと、「構造改革」になると思いますが、構造改革については本の中でも「長期的停滞の原因」として、かなり痛烈に批判されていますね。

佐伯 私が「構造改革」を批判し始めたのは、かなり初期のころからです。1993年、小沢一郎さんが政治改革を唱えて自民党を飛び出す。そこですでに行政改革や経済改革などという話も出てきました。その後96年の橋本龍太郎内閣発足時に構造改革、行政改革などを旗印に掲げた。