二宮寿朗「澤穂希、現役続行で示す“クイーンの背中”」

二宮 寿朗

情熱が衰えない限り

 それにしてもカズに憧れる“カズ信奉者”のサッカープレーヤーは多い。
彼はサッカーにすべてを注ぎこみ、トレーニングや食事に人一倍気をつかってきたことで45歳になってもJリーグで輝きを放っている。だが“カズ信奉者”が彼に憧れる理由はそういった“求道者”としての側面ばかりではあるまい。

 カズはいまだにW杯出場の夢を捨てていない。45歳になろうが、代表への思いは変わらないし、“サッカーがうまくなりたい”という純粋な情熱が衰えていない。そして何より、サッカーを楽しんでいる姿がある。そこが尊く、プレーヤーたちの心を引き付けているのである。

 昨年8月、急性心筋梗塞で他界した松田直樹は「俺もカズさんみたいにずっとやっていけたらな」と語っていたものだ。中学、高校と自宅にカズのポスターを貼っていた松田にとって、カズは特別な存在だった。40歳を超えてもサッカーへの情熱を燃やし続けるカズの話をよく持ち出していた。横浜F・マリノスから戦力外通告を受け、移籍先に当時JFLだった松本山雅を選んだのは、情熱をぶつけられるクラブだと判断したからだ。彼もカズに負けず劣らずの情熱家であり、そして何よりサッカー小僧であった。

 また、ベガルタ仙台を主将として引っ張る柳沢敦も“カズ信奉者”の一人だ。以前、カズについてこのように話していた。
「カズさんは凄くポジティブだし、それがいつもなんですよね。悩んで落ち込んでいるという姿がまったく想像できない。だから自分が悩んでいるときに“俺、ちっちゃいな”と思ってしまう(笑)。気持ちさえ前向きになれば、サッカーを楽しくやれるということをカズさんから学べた。あの人は“化け物”ですよ。絶対に追いつけないですけど、これからもずっと影響を受け続ける。そう思える人です」

 さて、澤穂希である。現在33歳、あと何年、彼女が現役を続けるかどうかは分からない。ただ、男子サッカーの“カズ信奉者”たちがベテランになってもカズの背中を見ているように、女子サッカーにおいても背中を見せるプレーヤーがいれば、後輩たちの励みになることは間違いない。クイーンと称される澤がそれに最もふさわしいプレーヤーであることは言うまでもない。1年でも1日でも長く。サッカーへの情熱が衰えない限りは、その背中を後輩たちに見せ続けることが女子サッカーの発展にもつながるのではないだろうか。

 なでしこジャパンの銀メダル獲得もさることながら、澤の「現役続行」「代表続行」も嬉しいニュースだった。カズもきっと喜んだことだろう。