文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
今年の全英オープンはゴルフの真髄というものを、あらためて感じさせられた大会だった。
単独首位で最終日をスタートしたアダム・スコットは、出だしこそ、1番と3番でボギーを叩いたが、7番以降は落ち着きを取り戻し、後半に入ってからはマークせずにパーパットが打てるイージーパーの連続だった。
そして、14番のバーディーが勝利へのダメ押しになった・・・と、誰もが思ったことだろう。
だが、ゴルフの本当の勝負は最終日の終盤だ。いや、何度もメジャーに勝ちかけて敗北してきたスコットは、上がりの数ホールこそが勝負だと知っていたからこそ、15番から少しずつセルフプレッシャーをかけてしまったのかもしれない。
スコットが連続ボギーを叩き始めると、逆に最終組の2つ前でプレーしていたアーニー・エルスはじりじりとスコットににじり寄り始め、2人の動きは対照的になった。
エルスがホールアウトした後、スコットは17番のボギーでついにエルスと並んでしまい、18番でバーディーなら優勝、パーならプレーオフ。そうやって、じり貧になっていった姿は、まるでゴルフの本質を世界に教えているかのようだった。
切羽詰まれば、いいプレーができなくなることを、スコットは自ら演じて見せるピエロの役割を果たすことになった。
ゴルフは72ホールの戦い。最後の最後まで何が起こるかわからない。そんなゴルフの真髄を世界中のゴルファーに認識させるために、ロイヤルリザムの女神は、エルスとスコットを選び、エルスを勝者へ、スコットを敗者へと仕立てたように思う。