特集 一年間に観る試合数は400。現役時代の栄光と挫折を乗り越え、新人発掘に人生をかける男たち
プロ野球スカウト という生き方

フライデー

二軍選手を奮い立たせた一言

内匠政博(オリックススカウト)
たくみ・まさひろ '68年、大阪府生まれ。PL学園では清原和博や桑田真澄と同期。俊足の外野手として、'93年に日本生命からドラフト3位で近鉄へ入団。'02年に現役引退。プロ通算で打率2割5分3厘、10本塁打

 一方、現役時代の経験から選手を勇気づけているスカウトもいる。'90年代に近鉄の1番打者として活躍した、オリックスの関西担当スカウト内匠政博(44)だ。現役時代の後半、思い通りの働きができず二軍で燻っていた彼を奮い立たせたのは、スカウトの一言だったという。

「当時、近鉄で僕を担当してくれた石山一秀さん(現、楽天アジア担当スカウト)です。石山さんは、二軍の球場で僕を見かけるたびに、声をかけてくれたんです。『お前が頑張っとんのは分かっとる。辛抱してれば、必ず上にあがれるからな』と。その言葉が嬉しかった。ともすれば気持ちが切れがちな二軍生活ですが、石山さんのおかげで『俺のことを見ていてくれる人がいる』と実感できた。そして『腐ってる場合やない! もう一度やってみよう』という気持ちになれたんです」

 新人を発掘するばかりが、スカウトの仕事ではないのだ。内匠は「獲得した選手をフォローすることも大事」と話す。

『ほっともっとフィールド神戸』のサブ球場で、社会人の試合を観戦しながら一人一人の選手をチェック

「僕も石山さんを見習い、担当した選手が伸び悩んでいれば『どうや、調子は』と、なるべく声をかけるようにしています。昨年入団した深江真登(外野手)も、そうした選手の一人です。彼は四国独立リーグの出身で、出場した試合を10試合以上観ましたが、とにかく脚が速い。一塁まで3秒ちょっとで走るんです」

 深江は、脚の速さを武器に開幕一軍を勝ち取る。だが結果が出ない。プロ初ヒットを記録したのは、シーズン終盤の昨年9月7日の楽天戦のことである。

「深江が僕の携帯へ連絡をくれたのは、その直後です。『内匠さん、やっと打てました!』と。僕は『見とったで。ご両親には報告したんか? えっ、してない!?アホ、早く連絡せなアカンやろ』と冗談で返しましたが、思わず目頭が熱くなりました。伸び悩んでいる担当選手の姿は、どうしても自分の現役時代と重なってしまう。他人事とは思えないんです」