白洲信哉 第2回 「細川護煕にじか当たりで秘書になり、何も分からないまま首相官邸に入った27歳の夏」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ 政治的な功績はともかく、細川首相はお洒落な人でしたね。銀座のサンモトヤマによく買い物に来ていましたよ。首相官邸の庭でシャンパンを開けたり、着ているものもダンディでした。

白洲 あのシャンパン・パーティーはぼくのアイデアだったんです。

シマジ でもシャンパンの泡のように短命の内閣でした。いまは湯河原で焼き物に凝っているそうじゃないですか。元首相の陶芸作品はもらったことはあるんですか?

白洲 ありません。お殿様はもらうことのほうが多くて、人にあげることはあまりないようです。

シマジ なるほど。そこはわれわれ庶民とは感覚が違うところですね。そうすると、信哉さんの人生で給料をもらった経験は細川さんの秘書をしていたときだけだったんですか?

白洲 そうですね。あとはフリーで文章を書いたりプロデューサー業をやったりして生きています。何年か前には、小林秀雄展をやりました。そのときはじめて根詰めて『小林秀雄全集』を読みました。

シマジ わたしぐらいの世代までは、ちゃんとした教養を身につけようと思う人は必ず『小林秀雄全集』を読んだものです。いまでも売らずに大切にしています。でも考えてみると、あの当時の劣悪なレコードや音響システムでモーツアルトを聴いて、『モオツァルト』を書いたんですから驚きますね。

白洲 道頓堀を歩いているときに突然、モーツアルトの旋律が頭に蘇ってきて、そこからデパートのレコード売り場に行って聴いたりしていますよね。

シマジ そのイマジネーションが凄い。あの作品はまさに小林秀雄の創作なんでしょうね。

白洲 でもいまでは小林秀雄のことはだんだん忘れ去られてきていますね。白洲次郎は死んでから突然、脚光を浴びましたが、それとは対照的です。

シマジ HNKでやった白洲次郎のスペシャルドラマは観ましたか?

白洲 観ましたよ。ドラマとはあんなものでしょう。