二宮清純レポート 野村祐輔23歳・広島東洋カープ 思考を止めないから相手の動きが見えてくる

週刊現代 プロフィール

 吉川は今では北海道日本ハムの押しも押されもせぬ主力左腕である。7勝2敗、防御率1・49。今季6年目でプロ通算13勝(20敗)をあげている。

 そして野村の1年後輩には広島の中田廉がいる。今季4年目でプロでは通算1勝(1敗)だけだが、その潜在能力は高く買われている。

甲子園決勝の〝誤審〟

 吉川と野村と中田。この3人のプロ投手を育てた中井に各々の評価を聞いた。

「ベース上のボールが一番速かったのが吉川。ハマった時は手がつけられなかった。スピードが150km/hは出ていましたし、三振も1試合で20個くらいはとっていました。

 中田も速かった。甲子園で148km/hをマークしたくらいですから。しかし、肩が早く開くのか、手許での伸びはあまり感じられなかった。手先は器用でチェンジアップやフォークボールなども投げていた。〝高校では3つくらい(の球種)でいいぞ!〟と言ったのですが、いろいろなボールを試していましたね。

 この2人と比較した場合、野村はさして速いボールがあるわけではない。しかし彼は勝てるんです。誰よりも自分のことを知っている。10の力で投げたら、今よりも速いボールが投げられるでしょう。でも彼はコントロールを重視して7か8の力で投げる。高校時代から相手に打つ気がないと判断したら緩いカーブを平気で真ん中に放っていました」

 エースとして高3のセンバツでチームをベスト8に導いた野村は、夏の甲子園でついに決勝進出を果たす。

 決勝では佐賀北相手に7回まで無失点ピッチングを続けていた。4対0とリードして迎えた8回裏、佐賀北の攻撃。押し出し四球で1点を返され、1死満塁の場面で副島浩史の逆転グランドスラムが飛び出す。

 佐賀北の粘りは見事の一語だがストライク・ボールを巡って微妙な判定がいくつかあった。4対5で敗れた試合後、中井の口から異例の審判批判が飛び出した。

「普段、(捕手の)小林(誠司)はあんな態度はとらない。ストライクが何球もあった。審判は技量を高めるべき。あれでは野村も真ん中しか投げられない」

 止むに止まれぬ批判の背景には何があったのか。

「普段、野村はベンチを見るような子じゃないんです。そんな子が僕の顔を見て、〝助けてくれ〟と目で訴えかけている。審判に対する発言は宿舎でのものですが、全選手が大泣きしていました。〝監督、僕らが言いたかったことを言っていただきました〟って・・・・・・」

 この試合について野村は今でも多くを語ろうとしない。ただ一言、こう口にした。