当初、6月上旬を期限としていた東京電力の「スマートメーター」の仕様決定が遅れている。
新たなビジネスチャンスの起爆剤になると期待されていたにもかかわらず、東電自身が将来的な発展性のほとんどないクローズドな仕様を打ち出したことへの批判が噴出、もともとスマートメーターの導入に消極的だった東電が委縮してしまったことが主な原因だ。同社関係者によると、「大きくずれ込むのは確実だ」という。
これを好機と捉えて、政府は政策転換を急ぐべきだ。今、重要なのは、個別の電力会社による拙速な仕様の決定ではなく、世界に通用する国内標準方式を確立することだからである。東電や関西電力、中部電力がそれぞれ閉鎖的な独自仕様を展開したのでは、電気の使用状況の「見える化」や省エネの推進、電化製品のネットワーク化など関連ビジネスの発展の芽を摘むことになりかねない。
この重要な時期にサボタージュを決め込んでいる経済産業省・資源エネルギー庁の奮起は期待薄だ。首相官邸がスマートメーターの標準化へ向けて指導力を発揮することが求められている。
5月15日付の本コラム「国有化の裏で東電が構築を目論む、NTTが27年前に放棄した『私的独占網』とは?」でも書いたが、スマートメーターというのは、通信機能を持つ電力計のことだ。
電力計に通信機能が備われば、電力会社の検針係が毎月、家庭や事業所を人海戦術で回って電気の使用量を確認しなくても、利用状況が自動的に送信されて円滑に料金が請求できるようになる。
長期的に見れば、電力会社経営の面で人員削減とコストカットが可能になるだけでなく、エネルギー消費に関してピーク時間帯の使用量に応じて機動的に適用料金を変えることなども容易になるため省電力にも役立つだろう。さらに、新産業創出の観点からも、家電製品のネットワークや在宅患者の健康状態の確認、在宅医療に大きな貢献が期待されている。まさにスマートグリッド(次世代送電網)のコアとして注目されているのが、スマートメーターなのである。
以前から述べているように、歴史的にみて参考になるのは、電力と同じネットワークビジネスの電気通信分野で、NTTが1985年の民営化にあわせて実施した電話機(正確には、ネットワークに接続する端末)の自由化だ。
それまでNTTは通信ネットワークに障害を与えるリスクがあるとして、自社製の電話機以外の接続を認めていなかったが、このとき型式認定制度を導入し、一定のスペックを満たしていることが第3者機関の検査などで確認された電話機ならば、ユーザーが自由に購入やレンタルで入手して接続できるようにした点がミソだった。
NTTの前例となったのは、米国の通信市場で有名な1968年の「カーターフォン事件の裁定」だ。カーターフォンというのは、公衆電話網に接続できるコードレス電話機で、他社端末の接続を拒んでいた旧AT&Tが接続を容認させられた初めてのケースだった。
端末の接続自由化をきっかけに、日米両国で、廉価でおしゃれなデザインや便利な機能を持った電話機のブームを呼んだだけでなく、留守番電話やファクシミリ、コードレス電話、コンピューター、PCなどが次々と接続されるきっかけになり、続々とニュービジネスを生み出した。今日のようなインターネット関連ビジネス全盛の呼び水の一つになったのだ。