警鐘レポート 5月に列島で発生したカミナリは実に72万回! 巨大積乱雲「スーパーセル」が引き起こす〝殺人気象〟の恐怖
「こんな竜巻は今まで見たことがない」
5月27日、茨城県つくば市で開かれた調査研究報告会で、気象学の専門家である防衛大学校地球海洋学科の小林文明教授が語った言葉だ。専門家でさえ、驚きを隠さない巨大竜巻が起こったのは、5月6日のことだった。
関東を中心に甚大な被害が発生し、特に被害が大きかった茨城県と栃木県では、合わせて約890棟が損壊。中学3年の男子生徒が死亡し、46人の負傷者が出た。他県の被災分も合わせると、複数襲った竜巻とカミナリで死者2名、負傷者55名、家屋900棟が損壊という被害が出ている。
茨城県つくば市北条地区に住む長島俊さん(62)は、巨大竜巻に襲われた恐怖体験をこう語る。
「部屋で寛いでいたら、突然ゴーッという凄まじい音が聞こえてきました。庭を見ると、植木のザクロが上から押さえつけられるように弓なりになって、地面に押しつけられている。何事かと思った瞬間、バーンと大きな音がして家の南側の窓ガラスが全部割れたんです。突風が家の中を吹き抜け、天井がバリバリと剝がれて飛んでいきました。時間にしたら1分もなかったと思います」
この巨大竜巻は、もちろん観測史上最大規模。発生源は「スーパーセル」と呼ばれる巨大な積乱雲(入道雲)であった。
スーパーセルが発生するメカニズムについては後述するが、このような巨大雲がもたらした〝天災〟は竜巻だけではない。今年5月の落雷発生件数は約72万回で前年同月の実に7倍に上り、5月6日には宮城県仙台市内で激しい雷雨と雹が降った。さらに10日には横浜市、18日には東京・調布市と、列島が立て続けに雹害に見舞われたのだ。
梅雨にはまだ一足早いこの時期に、国内最大級の〝殺人竜巻〟や豪雨、雹などが相次いで発生した原因は何か。気象学を研究する、酪農学園大学環境システム学部の馬場賢治准教授はこう解説する。
「西から東に吹く偏西風に乗って大陸側から張り出してきた強い寒気と、南方からやってきた暖気が重なって『下が暖かくて上が冷たい』という非常に不安定な気象状況が生じました。その結果、『爆弾低気圧』と呼ばれる、短時間で急速に発達する低気圧が生まれたのです」