ギリシャに続き、スペイン、イタリアもユーロを離脱するかもしれない
欧州危機が「爆発寸前」に近づき、ついにユーロ(対ドル)が2年ぶりの安値に急落する非常事態に陥った。クルーグマン氏は「ギリシャのユーロ離脱が、最悪のシナリオの始まりとなる」と言い切る。
取り付け騒ぎ、銀行崩壊へ
私は以前から「ギリシャの財政再建計画は現実的に実行不可能だ」と言ってきた。すると「ギリシャのデフォルト(債務不履行)は避けられないということか」と多くの人が聞いてきたが、私の答えは一貫して「デフォルトせずにギリシャが再建する方法は見当たらない」というものだった。
その考えはいまも変わりはない。現実が私の言っていたようになってきている。もはやギリシャにはユーロを離脱し、そこから改めてやり直す以外に道は残されていない。
では、ギリシャがユーロを離脱するのはいつになるのか。
それはおそらく、早ければ6月だ。6月17日に予定されている再選挙で、財政緊縮策に反対している急進左派連合が大勝すれば万事休す。少しは引き延ばすことができたとしても、6月中に50%の確率でギリシャはユーロを離脱することになる。
たとえ6月にそれが起こらなかったとしても、最終的には90%の確率でギリシャはユーロを離脱するだろう。
そもそもギリシャの銀行はいま同国の中央銀行からカネを借りているが、その中央銀行にカネを貸しているのはECB(欧州中央銀行)である。
だが、ギリシャではすでに銀行からの「静かな取り付け騒ぎ」が起きており、ECBが無制限にカネを貸さない限り封じ込められないほどになっている。
さらにギリシャの銀行セクターは同国経済が破滅的になっていることで、借りたカネを返す能力を失うリスクを抱えている。ECBがそんな銀行相手に、どこまで耐えられるかもわからない。
要するにECBが「NO」といえば、その時点でギリシャの銀行は機能しなくなる。そうなればギリシャにとってはユーロを捨てる以外の道はなくなってしまうのだ。もちろんそのときは同時に、ギリシャがデフォルトすることになる。
ギリシャのユーロ離脱。その影響は計り知れない。対応を誤れば、ユーロ圏で大パニックが起こることになるだろう。
ポール・クルーグマン。2008年にノーベル経済学賞を受賞した経済学の泰斗。プリンストン大学教授を務め、米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿するコラムがマーケットを動かすと言われるほどの影響力を持つ。
そんな氏がこのほど本誌の独占インタビューに応じた。ギリシャのユーロ離脱後に何が起こるのか。続けて「その後」をこう語った。
ギリシャがユーロを離脱すると、まずスペインとイタリアで銀行から大量の預金流出が起こることになる。いわゆる銀行への取り付け騒ぎというやつだ。すでに「bank walk(静かな取り付け騒ぎ)」がギリシャ、スペイン、イタリアなどの国々で起きているが、これが「bank run(取り付け騒ぎ)」に発展してしまうということだ。
人々は銀行の窓口に集まって現金を引き出したり、海外にカネを移転させる。そんな取り付け騒ぎが本格的になってくると、その額はまたたく間に膨れ上がってしまう。おそらく預金の引き出しと海外への移転の額を合わせて、1000億ユーロ (10兆円)単位になるだろう。
そうなれば巨大銀行崩壊の危険性が高まってくる。もちろんスペインやイタリアの巨大銀行が倒れれば、それは「第二のリーマン・ショック」級のものになる。ヨーロッパ全体の銀行システムの崩壊を招き、ユーロ圏全体が危機にさらされるのだ。