若者の雇用拡大が緊急の課題になっている。3月に内閣府が雇用保険の加入状況などから初めて行った推計では、2010年春に大学や専門学校を卒業した人で、就職できなかったり早期に辞めたりした人は52%、高校では68%に上るという結果が出た。大卒で2人に1人、高卒だと3人に2人がまともに職に就いていないという驚くべき数字である。
これに対して野田佳彦首相は「分厚い中間層の中核を担うべき若者が将来に希望を感じられなければ日本に未来はない」と強い危機感を示した。そのうえで、若者の雇用を支援するための総合対策を6月をメドにまとめるように指示していた。
内閣府に設けられた「雇用戦略対話・ワーキンググループ(若者雇用)」が3月末から5回にわたって議論し、このほど「若者雇用戦略(原案)」をまとめた。果たして問題解決に向けたどんな「切り札」が示されたのだろうか。
野田首相の強い危機感をよそに、今回まとまった原案の評判はすこぶる悪い。
「若者雇用戦略、実効性が課題に」(NHK)、「目指す社会が見えない」(東京新聞)、「誰にとっての若者雇用戦略?」(毎日新聞)---メディアに踊った見出しだけをみてもこんな具合だ。
原案の柱は「キャリア教育の充実」「雇用のミスマッチ解消」「キャリアアップ支援」の3つ。「地域キャリア教育支援協議会(仮称)」を設けてキャリア教育を支援することや、「学校とハローワークの完全連結」「地域中小企業の人材確保・定着支援事業の拡充」といった項目が並んでいる。
要はこれまで、厚生労働省や文部科学省、経済産業省など関係省庁が行ってきた事業を拡充しようという話が中心なのだ。
この点、東京新聞は手厳しい。
「ミスマッチ対策としてハローワークの相談員を全国の大学に派遣するが、大学の就職担当者から異論が出たように、厚労省がハローワーク事業の拡大を意図したものだろう。早期の離職防止対策で高校や大学で行うキャリア教育も、事業仕分けで廃止された文科省の事業を復活させる内容だ。若者支援に名を借りた焼け太りではないか」
そうした"焼け太り"とも言える対策のとりまとめに当たって、ワーキンググループでもひと悶着あった。委員のひとりだった藤原和博・東京学芸大学客員教授が4回目の議論を終えた5月15日付けで辞表を叩き付けて辞めてしまったのである。
藤原氏と言えば、リクルート出身で、東京都初の民間人公立中学校長として、教育の現場を大変革したことで知られる。「よのなか科」を提唱し、若者が社会に出た時の生きる力を身に付けさせる教育を実践してきた。その藤原氏がぶち切れたのだ。
なぜ藤原氏は怒ったのか。藤原氏が内閣府に送った「雇用戦略対話委員の離脱申告(その理由)」という文書から引用しよう。
< 残念ながら(若者雇用戦略は)中長期戦略と呼べるようなものではなく「中短期戦術拡充の方向性」と名付けるべきものになっており、その基本方針は、現在の政権のあり方からして、修正不能であろうと判断しました >
つまり、小手先の対策の拡充ばかりで、抜本的な戦略になっていない、と批判したのである。
藤原氏はこうも指摘する。
< 「戦略」とは、対処療法を拡大して、これもあれもと拡充したり新規に始めたりするものではなく、優先順位を明確にし、どこを叩けばより効果的に目標を達成できるかを見極め、むしろ大幅に戦線を絞って資源を集中投下することを指します。そうでなければ、太平洋戦争の日本軍になってしまいますから。 >
そのうえで、皮肉たっぷりにワーキンググループのあり方について、こう切り捨てている。
< たぶん、各省の「キャリア教育の充実」「ハローワークの強化」「キャリアアップ支援の拡大」意向を反映し、対処療法の拡充と予算増額を国に要望する会議だったのですね。私は、誤解しておりました。失礼しました。 >