調子がいい時の米満は、完全にブルース・リーになりきっている。自然と頭の中で「燃えよ、ドラゴン」のテーマが鳴り響く。「アチョ、アチョ、アチョー」。気づけばカンフーのようなステップを踏んでいる。相手はマット上の主役を引き立てる敵役でしかない。
「ブルース・リーになりきっている時は自分のリズムで試合ができていますね。いい結果も出ています」
最近はそんなスーパースターの生き様を、自らの進むべき道と重ね合わせるようになってきた。
「ブルース・リーが活躍していた当時、アメリカでアジア人が主役をとることは難しかったんです。でもブルース・リーは自分の力で最後はハリウッド映画の主役を演じた。このレスリングの世界もヨーロッパ系が牛耳っている。それを何とか僕が変えたい」
2012年は五輪イヤー。世界を驚かせる願ってもない舞台が巡ってくる。五輪出場はあくまでも通過点。その先のシナリオも米満の中ではしっかりとできあがっている。
「ロンドンで金メダルを獲って自分だけがワーッと喜んでいるのではなく、自分を支えてくれたコーチやトレーナーの方も喜んでくれている。みんなに恩返しができるといいですね」
あとはシナリオ通り、米満が世界で一番強い男を演じきれるかどうか。ロンドンの主役になるべく、緊張感あふれる撮影が続いていく。
(おわり)
※この原稿は2011年10月に執筆した内容を加筆、修正したものです。
(石田洋之)