[レスリング]
米満達弘(自衛隊体育学校)<Vol.2>「ブルース・リーを目指せ!」

スポーツコミュニケーションズ

緊張こそ力を出す源

 その一方で「体調が万全なら」という後悔が頭をもたげてきたのも事実だった。加えて強敵ジュガーノフに対し、戦う前から「勝てないかも」と弱気だった自分にも納得がいかなかった。

「体も心も鍛え直そう」

 肩を癒しながら、米満はこれまで体験したことのないハードトレーニングを自らに課した。マットから離れて走り込み、持久力と瞬発力を養った。最新のスポーツ科学を取り入れ、体幹の筋肉も徹底的にいじめ抜いた。「レスリングをやっているほうがラク」と感じたほどの半年間を経て、米満の体は強くたくましく変身していた。
「相手とぶつかっても当たり負けしなくなりました。それに少々のことではバテなくなりました」

 空き時間には、自己啓発やメンタルに関わる書籍を見つけては読みまくった。最も感銘を受けたのは、ある本にかかれていた「緊張」に対する捉え方だった。
「緊張って一般的には悪いものと思われがちなんですけど、その本には“緊張は自分の力を120%出すためのもの”といったことが書かれていたんです。緊張して普段と違う状態をつくるからこそ、それまでに蓄積していた力が勝手に出てくる」

 大きな試合になればなるほど、緊張の度合いは高まる。戦いの舞台では緊張から完全に逃れることはできない。とはいえ、緊張に自らが縛られている限り、相手を倒すことは不可能だ。

 そこで、いかにリラックスするかを意識するのではなく、秘めたる力を発揮する源として緊張状態を捉える。マイナスイメージをプラスに変える思考法で、身も心も充実した米満は、10年のアジア大会で日本勢16年ぶりの金メダルを獲得する。そして昨年の世界選手権では銀メダルと、世界一強い主役の座は、もう手の届くところまでやってきた。

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