われわれにしか出来ないことは何か。
大久保真也

おおくぼ・しんや1976年2月26日 福井県生まれ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙輸送ミッション本部宇宙輸送系システム技術研究開発センター主任開発員。2005年よりH-ⅡA、H-ⅡBと6年にわたってロケット開発を担当、現在はH-ⅡAロケットの次世代機となる次期基幹ロケットの開発を行う。

 JAXAでロケット開発をしている大久保さんにとっては、他国の技術者も、民間企業の技術者も、みんなライバルであり、同じ「夢」を見る仲間だ。互いに刺激し合い、補い合い、彼らが目指す未来とは?

取材・文/門倉 紫麻 撮影/神戸健太郎

 「国だけでやれることには、限界があります」

 そう話すのは、JAXAで新しいロケット「次期基幹ロケット」を開発中の大久保真也さん。宇宙開発はもはや国だけで行うものではない——その言葉が、JAXAのスタッフから出たことに、少々驚く。

 「堀江(貴文)さんや植松電機の植松さんが作ってるロケットについては、僕も意識しています」

 このムックでも取材をしたことのある2人の民間のロケット開発者の名前を、さらりと挙げた。

 「たぶん、目指すところは、僕らも堀江さんたちも同じだと思います。日本全体のロケット輸送事業が活発になっていけばいいなという思いが根底にあります。ロケットを、当たり前のものにしたいんです。アメリカの民間のロケット開発会社・スペースX社と、NASAのような関係が理想かなと思います。スペースX社は民間の力だけでやっているように見えるかもしれませんが、実はNASAから人材が転職したり、完成したロケットはNASAが買うよ、という約束をしていたりする。アメリカは、国と民間の協力体制がうまく機能するような土壌ができているんです」

 大久保さんにとって、国は国、民間は民間ではない。まして国対民間、でもない。国と民間が共に同じところを目指すため、国は、国にしかできないことをやろうとしているのだ。

「国の役割は、新しい技術開発のようなリスクが高い部分をやることだと思っています。数千億単位のお金がかかることは、やっぱり国にしか出来ない。僕らが新しい技術をいっぱい生み出して、それを機動力のある民間の会社が使えるよう、情報を開示していきたい。

 人材を育てることにも、もっと国が関われると思います。アメリカにはNASAでロケット開発に携わった技術者がたくさんいるので、人材の市場が豊かなんです。日本では、限られた技術者が力を合わせるという、かなり効率的な開発をやってきてしまった。これからは、携わる人をもっと増やしていかなければならない。いい人材が増えれば、結果的にすばらしいアイデアも増えて、ロケット開発がもっと活発化していくはずです」

 明るい未来がはっきり見えているみたいに、迷いなくそう言った。

ライバルの思想に踏み込み、戦略を練る

 新しいロケットを作るという仕事の中で大久保さんが務める役はどんなものなのか。レストランの出店にたとえて、語ってもらった。

「JAXAでの僕の仕事はレストラン全体の方向性を考えることですね。ロケットを料理だとすると、その料理が和食なのか、イタリアンなのかをまず考えます。さらに、どんな内装にして、どんな場所に出店すれば一番効率がいいのか、ということも考えていきます」

 方向性が決まったら、料理研究家=JAXAの技術者や、料理人=機体を作る民間のメーカーの技術者たちと、材料や調理法について議論を重ねる。レストランの出店にゴーサインを出す資金提供者である政府、お客である国民の存在も忘れてはならない。

「常にロケットシステム全体を見て、一番パフォーマンスをよくするにはどうしたらいいかを考えています」

 現在日本が使用しているのは「H‐Ⅱ」と呼ばれるロケットのシリーズ。H‐ⅡA、B、と順調に発展を続けてきた。今、大久保さんたちは、H‐Ⅱシリーズから脱し、「新しいものを作るくらいのつもりで」開発に取り組んでいる。

 「今、H‐Ⅱで行ける場所は主に2つです。1つは静止軌道——気象衛星ひまわりなどがいる場所ですね。もう1つは地球の周りをはいずり回るような、国際宇宙ステーションのある周回軌道。次のロケットでは、その2つに、月、そして小惑星を加えた4つの軌道に楽に行けるようにしたいと思っています」

 1つのロケットで、異なる4つのどの場所にも打ち上げられるものを作ること。それが、いまJAXAが掲げている目標だ。運ぶ物や運ぶ距離に合わせて3つのエンジンをうまく組み合わせる方法を考えているという。例えば、軽いものを近くへ飛ばすなら1と2のエンジン、重いものを遠くへ飛ばすならば3つ全部使うというような、燃料に無駄の出ない、合理的な打ち上げ方だ。

「この方式自体は、ほかの国でもありますが、このくらい大きなもので成功した例は、まだありません」

 まだ、世界の誰も作ったことのないものを。日本オリジナルなものを。大久保さんは何度もそう言う。新しいロケットは、JAXAにとって単なる輸送手段ではないのだ。日本の宇宙開発技術を世界にアピールするための、重要な戦略のひとつでもある。

「ほかの国でやってないことをやるには、ほかの国がやっていることを全部知っていなければいけない。公開されている情報は全部チェックして、分析しています」

 大久保さんは情報を分析しながら、その一歩奥、「思想」へと踏み込む。「ライバルたちが何を考え、どういう思想からそのロケットを作ろうとしたのかを分析することが、大事です。ずっと情報を見ていると、徐々に思想がわかってくるんです。思想がわかると、彼らが次に打つであろう一手が、体感できる。ただ体感しているだけに、僕らのアイデアとかぶることもあって。あたためていたのと同じものを先に発表されてしまって、みんなでやられた! ってがっかりすることもあります(笑)」

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