「どうせ無理」という言葉を撲滅したい!——何かを作ろうとして、壊れる。でも、大丈夫。直せばいいのだ!強い信念のもとに、今日もまた植松さんは「失敗」を乗り越え続ける。「重力とのケンカは、こんなにおもしろい。」続編!!
リサイクル用マグネット製作を行う民間企業が、通常業務と並行して手がけるのは、宇宙開発。ロケットの開発を行うほか、「微少重力実験塔」を擁し、その名は世界に知られている。
だが専務の植松努さんにとって、宇宙開発はあくまでも「手段」。真の目的は「どうせ無理」という言葉をなくすことだ。
「僕自身が幼いころからさらされてきた言葉。あらゆるビジネスも社会もだめにする恐ろしい言葉です。だから"叶わぬ夢"の象徴である宇宙開発を僕がやって見せれば、その言葉をなくせるんじゃないかと思ったんです」
そんな植松さんの元には各地の企業や学校から講演依頼や実験の見学依頼が殺到する。植松さんがとりわけ力を入れているのは子供たちを対象にした普及活動だ。
「幼稚園くらいの小さな子供たちから始めています。子供は、知りたがりだし、やりたがり。どうせ無理と思わない、諦めない人になってもらうには、諦め方をまだ知らない人に、諦め方を教えないのが一番いいのかなあと」
中学生、高校生と大人になるにつれ、「やりたがり、知りたがり」の気持ちが失われていくのを、植松さんは目の当たりにしてきた。
「幼稚園生に『無重力実験のボタン押してみたい人!』って聞いたら誰が押すかでケンカになります。でも、中学生になると、なかなか手があがらなくなってくる。受験のヤマ以外を覚えたら損ですよ、なんて教わってますから余計なことはしなくなるんですよね。
でも、気持ちはあるんです。僕の講演を聞いた高校生たちの感想文を読むと、本当に泣けてきます。みんな"どうせ無理"と言われることに悩んで、闘って、悲しんでいる。それに今の子たちはすごくやさしいですから、自分を責めるんですよね」
彼らを苦しめるのも、助けるのも、大人だ。
「家族も、教師も、決して苦しめたいと思っているわけではない。よかれと思って無理そうなこと、失敗する可能性のあることを避けさせようとしているだけなんです。でもそうすると、子供たちはどんどんやろうとする気持ちを失うし、どんどん何もできなくなっていく」
むしろ、安心して失敗できる環境を作ることこそが、大人が子供たちにしてやれることだ、と植松さんは考える。
「教育って、死には至らない、コントロールされた失敗を提供することだと思うんですよ。何かを作ろうとして、壊れる。でも大丈夫、直せばいいんだ、と教える。失敗を自分の手で乗り越えていく経験をいかにさせるかです」
宇宙開発の世界が、教育の場として最適なのは「常にモアを求める世界だから」。
「ここまででいい、ということがない。例えばロケットのエンジンが完成してうまく動いても、開発はそこで終わりじゃない。だって、もっと軽くできるかもしれないんですから。壊れなくてよかった、ではない。壊れるまで、爆発するまで、エンジンに負荷をかけていく。だから必ず誰もが失敗を経験するんです」
宇宙開発の現場では、失敗はしてはいけないことではない。貴重なデータなのだ。
「データを蓄積しないと何も判断できなくなる。失敗は必ずあるものだ、と考えて、データを元に最低最悪のパターンを何種類も想定して、備えることが一番大事なんですよ。それでも失敗は起こる。それもまた、次へのすごく貴重なデータになるんです」