特別読み物 宮本慎也と稲葉篤紀「男たちの生き方----清原でも、落合でもなく」 光はたまに当たればいい他人の意見をひとつ
も無駄にしない間違えた努力はしない

週刊現代 プロフィール

 開幕を二軍で迎えた稲葉だったが、ファームでは打ちまくり、6月には一軍に昇格。プロ初打席で本塁打を放つ。

 野口が言う。

「正直、稲葉は宮本さんに比べ、気弱で優しすぎるのではないかと心配していましたが、あの切り替えの早さには、驚かされましたね」

 '07年まで日本ハムで打撃コーチを務めたヤクルトの淡口憲治二軍打撃コーチは、稲葉の凄さを、

「他人の意見をひとつも無駄にしないこと」

 と表現する。

 日本ハムでは、試合後に必ず宿舎の屋上などにコーチと若手が集まり、素振りが行われる。そんな場に、稲葉はスッと現れる。

「2年目や3年目の若手に交じって、自分のスイングを丁寧にチェックしているんです。それで合間に我々に『今日の僕、どうでしたか?』と何気なく聞いてくる。聞く耳があるというか、コーチを利用するのが本当にうまい」

 淡口氏が続ける。

「プロのスポーツ選手はみんなプライドが高い。だから助言といっても、聞く側も聞かれる側も、厚いオブラートに包んだ会話をすることになる。でも稲葉君なんかは、それをギリギリまで薄くして聞いてきてくれる。そうすると、こちらもひとつ奥まで踏み込んだ話ができるんです」

 幼少時代の稲葉が気弱ないじめられっ子だったことは、有名な話だ。

 父・昌弘氏が言う。

「ちょっと大きな声で叱るだけで大泣きするような子でしたから(笑)。目を見て話すとか、先輩への礼儀とか、全部野球を通じて教えてもらったんです」

 プロの世界で生きていくための術も、アマチュア時代に学んだものだ。

 今でこそ球界随一の「練習の虫」と言われる稲葉だが、法政大学時代までは、そんなことはなかった。

 監督として、法大時代の稲葉を3年生まで指導した山本泰氏(現シアトル・マリナーズ国際スカウト)が語る。

「3年生に上がる前でした。昼ごろに僕が寮に行くと、稲葉がまだ寝ていた。それまでは将来のことに口出しはしなかったんですが、辛抱たまらず、『プロに行きたいから学校に行かないってやつが、昼まで寝てたらアカンだろ』と咎めたんです」