5月上旬に行われたフランスとギリシャの選挙で、ユーロを巡る信用不安問題は一段と混迷を深めた。両国の選挙で国民が示した意思表示は「反・緊縮財政」だった。ギリシャやフランスの国民は、「厳しい緊縮財政で、生活が苦しくてもう耐えられない」という叫び声をあげたわけだ。
そうした国民の声によって勝利したのは、「財政を絞るよりも成長が重要だ」と訴えたオランド次期フランス大統領であり、「財政協定そのものを考え直す」というギリシャの左派政党だった。その意味では、今回の選挙結果によって、従来懸念されていたユーロ圏金融機関の経営悪化=金融危機から、ユーロ圏諸国間の政治的亀裂の広がり=政治危機に発展する様相を呈するに至っている。
そうした政治危機の様相の中で、今のところ、「フランスのオランド新大統領は、ドイツと協調体制を崩すことはないだろう」とみられるものの、選挙期間中掲げていた「財政協定を見直す」という公約を簡単に反故にすることは難しい状況だ。両国の国民にとって受け入れ可能な妥協点を見出すことは容易ではないはずだ。
一方、ギリシャのケースはさらに深刻だ。国民が緊縮財政で疲弊していることに加えて、今後の国内の政治情勢が不透明になっているからだ。今後のギリシャの政治情勢によっては、経済状況は一段と厳しさを増すことになるだろう。最悪のケースでは、ギリシャが、ユーロ圏等からの資金支援の条件となっている、「緊縮財政」と「構造改革」の実施も難しくなる。
そうなると、ギリシャは、追加の支援を受けることができなくなり、事実上、資金繰りに窮することになる。そうした状況を見越して、専門家の間では既に「ギリシャのユーロ離脱は時間の問題」との見方も出ている。ユーロ圏の問題は、既に地域内の軋轢ではない。今後起きることが、世界経済に大きな影響を与えることになる。これからの展開が懸念される。
ギリシャのユーロ離脱が現実味を帯びてくれば、金融市場への影響も小さくはないだろう。最近、市場関係者と話していると、彼らの頭の中で最も可能性が高い展開は、「ユーロ圏17ヵ国の中から、ギリシャなどいくつかの国が脱落する」との見方だということがわかる。
金融市場の参加者は、ギリシャの次にキプロスやポルトガルが離脱を余儀なくされる可能性を考えるだろう。さらに、スペインやイタリアにまで、その波が及ぶかもしれない。そうなると金融市場のリスクファクターが顕在化し、多くの投資家はリスクオフ(リスクを軽減)することになる。
金融市場が大きく動揺すれば、実体経済にもマイナスの影響を与える。仮にそうした事態になると、そのマグニチュードは無視できない。問題は、ユーロ圏から離脱する国が取り沙汰されるたびに、金融市場が不安定になることだ。それだけで、世界経済の足を引っ張る可能性が十分にあるからだ。