4月26日、オバマ大統領の反対にも関わらず、米連邦議会下院は236対185でCISPA法案を可決した。CISPAとは「Cyber Intelligence Sharing and Protection Act」の略称で、民間のネット情報を収集し、政府機関によるサイバー・テロなどの防止を狙っている。
同法案は国家安全保障省(Department of Homeland Security)やアメリカ連邦捜査局(FBI)などが長年待ち望んできたものだが、民間ロビー団体のEFF(Electronic Frontier Foundation)をはじめとして約36団体が「ネットプライバシーの侵害」を理由に激しい反対活動をおこなっている。今回は、ワシントンを舞台に攻防が続くCISPA法案について分析してみたい。
米国市民に限らず、グーグルやヤフー、マイクロソフト、アップル、フェースブックなどのネット・サービスを利用しないネット・ユーザーはほとんどいないだろう。もし、CISPAが成立すれば、こうした大手ネット企業のサービスを使う貴方の情報や行動は、連邦政府機関に筒抜けになる。
電話が主要な通信手段だった頃、公安機関は電話交換機にアクセスすれば通信内容を傍受することができた。しかし、そうした天国のような時代は、もはや語り草となっている。テロリストだけでなく、一般犯罪組織も、最近はブロードバンドと高度な暗号化システムを利用してコミュニケーションをおこなっている。
近年、国家安全保障省やFBIはインターネットに流れる情報を収集し、分析解読をおこなおうとしてきた。最近のディープ・インスペクション・テクノロジー(ネットの信号をすべて解読する技術)を使えば、かなりの内容を把握できるようになっている。「アラブの春」では、独裁政権が、こうした技術を使って反政府活動家を見つけ出そうとした。
ただ、ディープ・インスペクション機器は特定のネットワークなどに限定利用しなければ効果がない。国土が広く、様々なネットワークが絡み合っている米国の場合、国土全体を網羅してリアルタイムで探査することは、ディープ・インスペクション・テクノロジーでも不可能だ。
一方、中国などはサイバー・アタックの専門機関を編成し、組織的なハッキングやテロ活動を展開しているようだ。また、サイバー・アクティビストなどのハッカー団体がサイバー・テロやサイバー・ハッキングを組織的におこなう事例も増えている。
たとえば、最近ではカリフォルニア州オークランド市の市長や警察幹部の個人情報をハッキングし、一般公開するサイバー攻撃がおこなわれた。これはオキュパイド・ウォールストリートに端を発した市民抗議活動がオークランド市にも飛び火し、その鎮圧・強制退去を決定した市長や警察幹部に対するサイバー・アクティビスト「アノニマス」の反撃だった。
こうした状況は、サイバー・テロやサイバー・ハッキングによる大規模なトラブルが発生する可能性を秘めており、連邦政府の公安機関は危機感を強めている。