消費税の議論が国民にはますます分かりにくくなってきた。消費増税法案を提出した野田佳彦総理が求める党首会談を蹴飛ばした自民党の谷垣禎一総裁。ところが、時を同じくして自民党が出した新マニフェストの原案は消費税を当面10%に引き上げると謳った。民主党と同じだ。自民も民主も財政政策の指南役は財務省。答えが同じになるのは仕方ないが、ならば、政治は財務省にやってもらったらという声が聞こえてきそうだ。
他方、消費税の騒ぎも影が薄くなるほどの大混乱となっているのが大飯原発再稼働問題。反対と高らかに宣言した枝野幸男経産相が発言を一夜にして撤回、野田総理が暫定基準の策定を指示するとわずか2日でそれができて、工程表の作成を関電に命じるとこれまた3日で提出される。班目春樹原子力安全委員長が安全とは言えないと懸念を表明したのに4大臣が集まって安全だと認める。あまりのでたらめさに国民は怒りを通り越して唖然としている有り様。
ところが、どんなに世論の反発を招いても民主党政権は再稼働を中止する気はない。国会で自民党が追及しないからだ。自民党は民主党よりも電力寄りで経産官僚に洗脳されている。民主党ほど愚かでないので、目立たないよう身を潜め、民主党が再稼働に踏み切ってくれるのを待っている。
消費税や原発の議論の陰では、官僚の振り付けに従った民主と自民のバラマキ路線、反構造改革路線が絵に描いたように押し進められている。昨年末に決まった八ツ場ダム建設再開、整備新幹線の着工に始まり、郵政民営化路線の大後退に至っては自民も賛成。地震に名を借りた公共工事の大盤振る舞いでゼネコンが有卦に入る最中に高速道路建設の凍結解除。それと競うように自民党の新マニフェスト原案に入った「国土強靭化」は、こちらも防災に名を借りて10年で200兆円をバラまく公共事業拡大策だ。
30年前に戻ったかのような政策の裏には財務省、経産省、国交省などの官僚達の「的確な指導」がある。自民党は元祖官僚依存だが、民主党議員の多くも最近は官僚への忠誠を誓って自民よりも露骨な族議員になり下がっている。
かくして国会は官僚の横暴をチェックする機能を完全に失い、気がつけば、公務員人件費カットは2年限り、中高年官僚の既得権を守るため新卒採用を56%削減、その代わり(というには費用が大き過ぎるが)定年後の再雇用の大幅拡充(これも事実上全員再雇用になるのは確実)方針が決定され、将来の高給維持での定年延長への布石も敷かれた。共済年金と厚生年金一元化はようやく法案を出すそうだが、職域加算など公務員優遇は別建てで残す算段。一元化しても天下り先の共済組合(80もある!)は温存だ。しかし、これだけ並べても、おそらく官僚達は、まだほんの少ししか気付かれていないなとほくそ笑んでいるに違いない。
民主党が与党になって政権担当能力がないことが分かったが、逆にもう一つ深刻な事態が生じていることに気付くのが遅れた。それは、自民党には健全野党の機能を果たす能力がなかったということだ。両党の行き着く先は官僚主導のバラマキ大連立しかない。日本の中枢はまさに崩壊してしまった。そしてその朽ち木の中でも官僚というシロアリだけは大帝国建設に勤しんでいるのである。
「週刊現代」2012年4月28日号より