やはり法的整理をすべきだった---。
東京電力の電気料金の引き上げを巡る混乱ぶりを目の当たりにして、改めて、民主党政権の安易な東電支援策の誤りを痛感している人は多いのではないだろうか。
実際のところ、東電に、改悛を期待するのは難しいようだ。同社は大顰蹙(ひんしゅく)を買った4月1日からの企業向け料金の引き上げに続いて、7月にも一般向け料金の10%程度の引き上げを計画しているという。
その一方で、東電の計画を検証しても、リストラクチャリングなどで真摯な自助努力をした形跡は見当たらない。人件費削減のペースをはじめ、あの日本航空(JAL)と比べても手抜きと言わざるを得ないのだ。
もともと日本の電力と言えば、先進国の中で1、2位を争う高い料金が有名だった。原子力発電の振興や安定供給といった大義名分を掲げて、地域独占、発送電一体経営、総括原価主義による料金決定の三位一体の制度的特権を謳歌することを許されてきたからだ。
どんなに割高でも、首都圏の1都6県と静岡、山梨両県の一部に住む限り、東電以外から電気を買うという選択肢はなかった。
潤沢な資金があったはずなのに、お隣りの東北電力と比べても、東電は、立地や津波対策といった原子力発電所の安全確保で明らかに出遅れていた。昨年3月、東日本大震災に襲われながら、東北電力が東通、女川の両原子力発電所で何ら深刻な事故を引き起こさなかったのに対して、東電の福島第一原子力発電所は旧ソ連のチェルノブイリ原発と並ぶ人類史上最悪の原発事故を引き起こし、放射性物質を撒き散らした。
そして、この福島第一原発の事故は、全国の原発を運転停止に追い込んだ元凶だ。そして、全国の電力会社に代替の火力発電所のフル稼働を迫り、そのための化石燃料の獲得コストを大きく押し上げた。
東電の今回の値上げは、その化石燃料の調達コストの上昇分を、全国の電力会社に先駆けて、幅広くユーザーに転嫁しようというものだ。
だが、国民の原発事故への怒りも収まらないのに、東電は、今回の企業向けの料金引き上げについて、新料金への切り替えが4月1日以降に更新する利用契約分からである事実をきちんと説明せず、再び、日本中から猛烈な反発を買った。
日本経済新聞によると、今回の値上げ対象企業(約5万件)のうち、4月12日時点までに値上げ案を盛り込んだ新契約に応じたのは1万8100件に過ぎない。全体の3分の2は、依然として同意を拒んでいるというのである。
しかし、東電は7月にも一般向け料金を引き上げるべく、必要な許認可を受けるための調整を続けているという。
そこで気掛かりなのが、東電の値上げの根拠である。
東電が法人顧客向けにホームページで公表しているデータを用いて、その実態を検証してみよう。
それによると、東電は「1kwhの発電に必要な費用が火力燃料費、購入電力料の上昇に伴い3.22円上昇したが、このうちコストダウンで0.71円を吸収したから、2.51円の値上げをユーザーにお願いしたい」という趣旨の説明を掲載している。
この値上げを法人向けの料金(平均で約15円/kwh)にあてはめると、値上げ幅が17%程度になるというのだ。ちなみに、一般向けの料金も、法人と同幅の1kwhにつき2.51円の値上げを想定しているとされており、この値上げを一般向けの現行料金(平均約25円/kwh)にあてはめると10%程度の値上げになるとされている。
一方で、このデータを見ていくと、東電の経営の拙さと努力不足が浮かび上がる。
象徴的なものを紹介すると、まず第1に、コストを3.22円/kwhも押し上げた背景があげられる。福島第一、同第二、そして柏崎刈羽の3原子力発電所の運転停止に伴って、緊急で電力を確保する必要があったとはいえ、化石燃料の中で最も割高なLNGなどガス系の発電への依存度を高めざるを得なくなったのは、以前から先行きを甘く見ていた証左で、経営責任を問われてもおかしくない問題と言えるだろう。
今年度の電源構成をみると、全体に占めるLNGなどのガス系の割合は、58%と4年前に比べて17ポイントも上昇する見通し。石油は18%と同2ポイントながら増えている。ところが、石炭は3%と4年前からまったく増やせていない。
これは、CO2排出の大幅削減が可能になったうえに、埋蔵量が豊富で長期的に廉価で安定確保が可能と見込まれる石炭火力(ハイブリッド型)発電所の建設を長年、怠ってきたことが要因だ。原発ばかりに依存して、電源の多様化を怠ってきたツケのあらわれなのである。
また、これは他の電力会社も共通する問題だが、東電は交渉が拙く、スポット物など割高なLNGを輸入しているという指摘もある。もし、中東問題がこじれて、イランがホルムズ海峡の封鎖を強行するような事態が起きれば、LNGの輸送の大動脈が絶たれる。その結果、国内備蓄の乏しいLNG依存度を高めたことが仇になるリスクもある。