山梨県のスーパー25社などが3月22日、東京電力の一方的な値上げは優越的地位の濫用に当たるとして公正取引委員会に申告した。
東電の値上げについては、枝野幸男経産相が、権限はないが「行政指導」すると発言したが、この25社の動きは、公取委というもっと強力な国民の味方がいたのだということを思い出させてくれた。
電力会社は地域独占を認められていて、全く競争がなく倒産の心配もない代わりに、経産省が強い規制権限を持っていて厳しく監督していると思っている国民も多いのではないか。しかし、その認識はかなりの部分で誤りだ。
まず、大口需要家向けの供給は地域独占が認められておらず、「自由化」されていて、料金などについても経産省はいちいちチェックなどできない。だから枝野大臣が「権限がない」と言っているのだ。しかも、法律上自由化されているのに実際には地域外の大手電力会社と契約している例は中国地方のスーパーが九州電力から買っている一例のみで、実態は地域独占のままだ。「自由化」とは「電力会社が好き勝手できる」という意味になってしまっている。
一方、一般家庭向けについては地域独占を認める一方で、料金は経産省がチェックして認可する権限を持っているのだが、実態はかなり異なる。デフレが続いているのに長らく本格的なチェックは行われておらず、しかも、発電に不必要な様々な寄付金や広告宣伝費などを電力会社の言い値のまま料金に転嫁することを認めていた。だから電力料金がバカ高いのだ。
なぜ法律と現実がかけ離れているかというと、経産省が電力会社と癒着していて消費者のことなど微塵も考えていないからだ。経産省は枝野大臣を使ってひたすら東電を悪者にして自らの責任を免れようとしているが、これまで電力会社の横暴を認めていたのは経産省だ。おかげで電力会社には随分と恩を売っている。だから歴代の資源エネルギー庁幹部などが堂々と電力会社に天下りを続けられる訳だ。原発の安全規制を任せてはいけないのと同じで、電力の規制権限も経産省から引き剥がさなければいけない。
その答えとなるのが公取委だ。公取委は従来、電力会社の強大な政治力にひるみ、この世界に切り込むことをためらっていたが、東電の力が弱まり、さらに今般のとんでもない値上げ強要で千載一遇のチャンスが訪れた。今回は、独占禁止法第19条の不公正な取引方法のうち「優越的地位の濫用」に当たるとの申告だが、これほどわかりやすい例はない。もちろん個別事案として精査すべき点はあるが、公取委がこれを不問に付すことはできないだろう。
さらにその先がある。事実上の独占状態にある電力業界に対しては常時、第三者的な規制機関がチェックすることが必要だ。経産省という電力会社お抱え機関にやらせてはいけない。そういう問題意識があってか、公取委は3月下旬、電力業界の「地域独占」に関する調査を行うことを発表した。この夏に政府は電力市場のあり方について大方針を出すはずだが、それに間に合わせなければならない。
電力事業の規制権限を公取委に、または新たに独立の委員会を作ってそこに移管するための政策提言を公取委が行ってはどうか。担当大臣は松原仁氏。その力量と見識が問われている。
「週刊現代」2012年4月21日号より