幼少期から、双子の兄がエースだった。同世代には「おかわり君」がいて、いまチームには、ひとつ年上の内川聖一がいる。ずっとトップではなかった。待ちに待った春の到来。男はいよいよ見頃を迎える。
常に競い合い、時には支え合う。スポーツ選手が成功する上でライバルの存在は必要不可欠である。成長の研ぎ石と言っても過言ではあるまい。
昨季、日本一を達成した福岡ソフトバンクの主砲・松田宣浩には、野球を始めて以来、常に越えなければならない壁が目の前に立ちはだかっていた。それをひとつひとつ乗り越えて、やっと今の場所まできた。もちろん目指すべき頂は、はるかに遠い。
低反発の統一球、いわゆる〝飛ばないボール〟の影響でホームランが激減した昨季、逆風もものかは、彼はキャリアハイとなる25本塁打をマークした。これは〝おかわり君〟こと中村剛也(埼玉西武)に次ぐリーグ2位の本数だった。
フル出場を果たしたのも昨季が初めて。打率2割8分2厘、83打点、27盗塁という数字もキャリアハイだった。
プロ入り6年目、28歳での打撃開眼には理由がある。語るのは打撃コーチの立花義家。現役時代、クラウンライター(現西武)では〝19歳の3番打者〟として一世を風靡した。こちらは早熟のスラッガーだ。
「マッチ(松田の愛称)は体からバットが離れるクセがあった。悪くなると外のボールを追いかけるんです。このクセを矯正するため、おととしの秋季練習あたりから、右サイドで我慢して後ろからボールを見るトレーニングをさせた。要するに〝タメ〟をつくるということです。
意識は逆方向に強い打球を打つこと。といっても単なるライト前ヒットではなく、右中間方向へのホームラン。我慢するだけ我慢して、軸足に溜めたエネルギーを解き放つ。これにより体からバットが離れることもなくなりました」
元々、ポイントを前に置くバッターだ。〝飛ばないボール〟にかわってからは、これが幸いした。一昨年までのボールなら、少々、詰まってもスタンドに運ぶことができた。しかし、昨シーズンから導入された統一球はバットの芯でしっかりとらえ、打球に角度をつけなければ飛距離は稼げない。これができたのが中村であり、松田だったのだ。
再び立花の説明。
「基本的にマッチは前で打つバッターだったので〝飛ばないから前で打て!〟と言う必要がなかった。そんなこと言うと、また体からバットが離れる悪いクセが顔を出していたでしょう。