二宮清純レポート
セーブ王は逃げない岩瀬仁紀中日ドラゴンズ・投手「クローザーの心得」

週刊現代 プロフィール

 森の回想。

「当時の岩瀬はスラーブみたいな曲がりの大きな変化球を投げていました。しかし本当の持ち味はナチュラルにスライドするボール。バッターからすれば大きな変化より、手許で小さく変化するボールの方が打ちにくい。そこで投げ方をアドバイスしたんです。

 実は彼はテイクバックが独特なんです。腕が頭の後ろにきて、そこからサイド気味に出てくる。これはスライダーに適した投げ方なんです。

 それでちょっと〝縫い目をズラして投げてみろ〟と。何球か投げているうちにシュッ、シュッとボールが切れてきた。このボールをマスターするには、なるべく前でボールを放さなければならない。まずは軸足でしっかり立ち、次に体重移動。彼の場合、前の肩が早く開くクセがあった。

 そこでグラブを絞って肩が開かないようにしました。こうすることで自ずと腕も振れてきた。社会人2年目には、ほとんどあのスライダーは打たれていないはずです」

無事是名馬

 名を成したクローザーには、代名詞とでも呼ぶべきウイニングショットが必ずある。たとえば日米通算381セーブの佐々木主浩にはフォークボール、日米韓台通算347セーブの高津臣吾(BCリーグ・新潟)にはシンカー。岩瀬の場合は「打者の手許で加速する」と言われるスライダーだ。

 '99年に逆指名で中日に入団した岩瀬はセットアッパーからスタートした。新人王こそ20勝(4敗)をあげた巨人・上原浩治(現レンジャーズ)に譲ったものの、65試合に登板し、10勝2敗1セーブ、防御率1・57という数字は見事の一語である。

 この岩瀬を大の苦手にしていたのが、元ヤクルトの古田敦也だ。頭脳派捕手兼好打者の目に岩瀬のボールはどう映っていたのだろう。

「岩瀬のボールは両サイドに滑るんです。右バッターには〝真っスラ〟気味のスライダー。これはインコースに食い込んでくる。そしてアウトコースには逃げていくシュート。落ちるボールはないのですが、僕は全く手が出なかった。

 岩瀬のスライダーの特徴は、途中まで真っすぐに見えること。打者の手許で食い込んでくるから、バットに当たってもヒットにならない。ほとんどが詰まった内野ゴロです。

 彼はこのスライダーをバックドアとして使うこともある。アウトサイドの遠いところからストライクゾーンぎりぎりに入れてくる。しかもコントロールがいいから、こちらはバットに当てるのが精一杯。もう、全く打てる気がしなかったですね。

 オールスターで岩瀬のボールを受けてみると、滑り加減が半端じゃない。〝やっぱり、こりゃ打てん!〟と諦めました(笑)」